2007/3/21

レイフ・オヴェ・アンスネス  

今回は、レイフ・オヴェ・アンスネスというピアニストを取り上げたい。1970年、ノルウェーのカルメイ生まれで、ベルゲンのイルジー・フリンカに師事した。1987年にデビューを果たして、芸暦はようやく20年に達するかというところであるが、30代にして、既に当代きってのピアニストの一人となっており、人気も高い。この人の経歴には、有名なコンクールの受賞暦などは刻まれていないが、もはや、その評価は揺るぎなく確立されている。

2002年、つくばで、はじめて彼の実演に接したとき、こころの中から癒される感じがしたものだ。当時、私はアンスネスのことを、グリーグの「抒情小曲集」の録音によって、知ってはいた。しかし、彼のファンというには遠かった。当日のメインはショパンのソナタ第3番だったが、彼の演奏はとても静かだった。最近、私はまだ実演に接していないが、ブレハッチのショパンは鳴らしすぎない上品さがあるということで話題になっているが、アンスネスのショパンも、ちょうど、そんな感じだった。

EMIとの契約ピアニストととなり、アンスネスの録音は多い。代名詞ともいえるグリーグのほかでは、独特の引き伸ばされたヤナーチェクの「ソナタ」が有名だ。コンチェルトでは、パッパーノと入れたラフマニノフが、よく噛みあった美しいフォルムで評価された。ボストリッジとの、シューベルトの歌曲・・・などが有名である。

私が考えるアンスネスの特長は、強音から弱音まで一貫した音色の美しさ(清潔さ)と、その多彩な色合いにあると思う。昨年、ダルバヴィを特集したサントリーホールの現代音楽のシリーズでは、彼を独奏に想定して書かれたコンチェルトと、冒頭に置かれたアンスネスの「霧の中で」の独奏をテーマにした新曲が演奏された。そして、この2つの楽曲は、アンスネスならではの音色のパレットの広さがなくては、成り立たない楽曲だった。シリーズを通しての、この作曲家のパフォーマンスに関しては批判的な評価もなされたが、アンスネスのファンとしては、素晴らしいの一言に尽きる。ダルバヴィは、アンスネスのことを完璧に理解していた!

アンスネスに関して、もうひとつ特長を挙げるとすれば、一音たりとも無駄にしないということであろう。その象徴は、先にも挙げたヤナーチェクの録音だ。収録されたソナタは、その題名が示すように、「1905年10月1日街頭にて」起こった悲劇に対する、きわめて重い内容をもっている。そして、その曲をアンスネスは、ひとつひとつの音をピンセットでつまむようにして、美しく並べていったのだ。3楽章が作曲者によって破棄されるなど、本来、あまり長い曲ではないのだが、そこを埋めるように、アンスネスはゆっくりと弾いて、CD1枚では入りきらなくなった。だが、そのために、アンスネスによる「霧の中で」や「草陰の小径にて」が余白に収まることになった。

ヴィルトゥオーゾ系のピアニストでは、「弾き飛ばす」なんていうこともあるが、アンスネスの場合には、間違っても、そんなことはない。彼は楽曲に対する尊敬がふかく、自分はきわめて謙虚な弾き手である。主張がないのではない。奥にちょこんと控えているだけで、座敷がぱっと華やぐような、美しいお嬢さんのような存在なのだ。サントリーホールのフェスティバル・ソロイスツとの共演でも、彼のピアノはあくまで控えめだったが、存在感があった。もちろん、独奏の場合は、その華をこころゆくまで楽しむことができる。

アンスネス、一度は聴いてみていただきたいピアニスト・・・。
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