はなさんの日記
2008年09月27日06:22 NHK教育テレビ
NHK教育テレビ
知るを楽しむ 人生の歩き方 −岩澤信夫 生きものの豊かな田んぼ−<全4回>
第三回 生きものが集まり人が集まる (2)
黒田アナウンサー :K
岩澤信夫さん :I
冬期湛水をした田んぼでは 稲株が水の中で分解され 水の栄養価が増して 微生物が発生します。
暖かくなる頃には 田んぼの表面が藻類でおおわれ これがエサとなり また光合成を行うことで メダカなどの小さな生き物が 住みやすい環境になります。
その中で 稲は育ちます。
やがては エサを求めて鳥たちが舞い降りる田んぼとなるのです。
K 「稲にとってどうなんですか?
その 他のものがいるっていう・・。
カエルの卵なんか かえっちゃったりして。」
I 「カエルがいっぱいいるってことは 殺虫剤をまいているのと
同じなんです。
結局カエルは 生きものをエサにしていますから 稲に害のない
ただの虫も 食べているけど 害虫もみんな食べちゃう。
結局 虫の害がない。殺虫剤を撒かなくてよい。」
K 「殺虫剤を撒かなくてよい。
農薬とか殺虫剤とか そういうものが必要ないんですね。」
I 「必要ない。 はっきり言えば 害虫 ウンカやなんかも
いっぱいいるんですけど それを食べる天敵もいっぱいいて
バランスが取れて 稲に害がない。
水田の生態系の頂点ていうのは 鳥類。」
K 「鳥?」
I 「鳥。 鳥がいっぱい来るようでしたら ここには非常に
食物連鎖が うまくいってる。 エサがある。」
K 「じゃあ ここでほんと 昔ながらの自然がちゃんとここにある。」
I 「ある。」
冬場に水をはるようになってから 3年目の耕さない田んぼです。
稲刈りを始めると たくさんの白サギが集まってきます。
田んぼの中には カエルやバッタやドジョウ等 たくさんの生きものが 隠れています。
生きもののあふれる田んぼは 鳥たちにとって恰好のエサ場なのです。
7年前 岩澤さんは 佐渡に招かれました。
佐渡の人々が 鳥たちが舞い降りる 耕さない田んぼに注目したのです。
佐渡では トキの放鳥が 数年後に予定されていました。
トキのエサ場となる 耕さない田んぼ作りが 佐渡でも始まります。
「佐渡トキの田んぼを守る会」
最初に集まったのは 島の農家7軒です。
もし、収穫が減れば 村が保証する等の支援体制も 整えられました。
岩澤さんの指導が始まって2年、これまでに挑戦したことのない農法に 農家はまだ 不安を感じていました。
I 「あんたがたに ??なってもらったら困っちゃう。
のんびりしてらんねえとこがあるんだ。
将来こうなってくれなきゃ困る。」(と、写真を見せる。)
岩澤さんは 今から目指すべき 生きものの豊かな田んぼの姿を見せました。
1年目から 耕さない田んぼの米作りに取り組んだ 川上龍一さん。
川上龍一さん :川
川 「田んぼの中に もう いっぱいメダカが泳いでいる写真を見せて
いただいた時に まあ ひとつ こう 喜びというか
なんともいえない感慨を 覚えたもんですから それじゃあまあ
絶対やってみる価値があるというふうに 思ったんで まあ
ちょうど トキの事もありますし ちょうどいい時期だったな
というふうに思っております。 はい。」
耕さない固い土に 稲を植えるためには 丈夫な苗作りが肝心です。
この年から参加した 佐々木さんが 苗を見せに来ました。
葉が ところどころ黄色くなっています。
佐々木さんには その原因がわかりませんでした。
岩澤さんは 苗が栄養失調になっていると診断。
すぐに肥料を与えるように 指示します。
佐々木さんは 生きものを増やすために 完全無農薬での米作りにこだわっていました。
化学肥料は 使いたくない。
そのために 酒蔵から酒かすをもらって 肥料にしました。
岩澤さんの目指す米作りが 農家の意識を変えたのです。
そして2年目の田植え。
9件の農家が加わり、18件の農家が 耕さない田んぼでの米作りに挑みました。
なんとか持ち直した佐々木さんの苗も 順調に植えられていきます。
生きものの豊かな田んぼを取り戻し、いつかこの島で 野生のトキが羽ばたく日を迎えたい。
そのための挑戦が この年本格化していきました。
つづく
「生きものの豊かな田んぼ」 Bの3
知るを楽しむ 人生の歩き方 −岩澤信夫 生きものの豊かな田んぼ−<全4回>
第三回 生きものが集まり人が集まる (2)
黒田アナウンサー :K
岩澤信夫さん :I
K 「そういった その絶滅危惧種が よみがえってくるというのは
このあたりでも 見られるということですか?」
I 「そうですね。 その「代表的なのは 千葉県の絶滅危惧種の
ニホンアカガエル。」
K 「カエル?」
I 「カエル。 2月3月が産卵期。
したがって このへんの田んぼっていうのは 水が一滴もない。
カラカラになている。」
K 「不耕起のところ以外はね。」
I 「はあ。したがって 私たちが水をはったこの田んぼっていうのが
水が満々としていますから この匂いを嗅ぎつけて 2kmから
3km、遠いのは4kmくらい先から 卵を産みに来ている。」
K 「水の香りをかいで?」
I 「はい。 風によって こう 匂いがするんですね。
で、『あ、産卵場だ』ってね。彼らは 霜の中をね、ピョンピョン
はねて ここへ来ている。」
K 「なんか 涙ぐましいですね。」
I 「そうなんですよ。 で、産卵が終わると また土の中に入って
冬眠する。 ちょうどだから 絶滅危惧種っていうのは 産卵場所
がなくて 絶滅に近くなっちゃう。」
K 「世代交代ができないわけですね。」
I 「はい、そうなの。
これだけ 生きものの豊富になる農法っていうのは
今私たちがやっている 冬期湛水と不耕起移植栽培ってやつを
組み合わせてた農法が 一番多くなるんですよ。
この田んぼを 佐渡島にいっぱい作んないと結局 放鳥された
トキが越冬できない。」
2002年6月
岩澤さんが 指導に渡ったその年の夏 佐渡の農家の田んぼでは どれだけの生きものが 住みはじめたのか 調べてみることになりました。
調査員 「モリアオガエルは います。
ところが シュレーゲル青ガエルって本州にも いっぱいいる
カエルですね。
これは畦に卵を産むタイプなんですけど これは 佐渡にはいない。」
(それを聞いていた人が 遠くから)
井川 「いっぱいおる。いやいや 畦におる。」
調査員 「畦についとる? そると これかもしれません。
調査が不足している。 初発見になるかもしれません。」
井川 「いっぱいおるね。 いくらでもおるね。 草刈っとると・・。」
米作りを続けて40年のベテラン 井川浩一さん。これまで田んぼの生きものに 気をとめたことなど ありませんでした。
井川 「これ 一つおった。」
A 「おったおった。大きなの。」
井川 「ふくれとる。」
A 「妊娠中やな。」
井川 「いやいや 怒っとんのや。」
A 「ふくれとるわ。」
井川 「怒っとんのかな。 捕まえて。」
A 「ほんと おるわ。 ふくれとるわ。」
井川さんが見つけたカエル、はたして 佐渡にはいないはずの カエルなんでしょうか?
A 「ほらほら すごいすごい。 大発見!」
調査員 「これ アマガエル。」
残念ながら新発見とは なりませんでした。
耕さない田んぼでの米作りは 田んぼの姿を大きく変えました。
田んぼには 確かに小さな命が 息づき始めていたのです。
K 「これ 始めて生きものの事 いろんな事学びますね。」
I 「いや、学ばされちゃう。 はい。
今のような 時代になってくると お米一俵で 一つの人間の命を
つないでいるわけです。
そうすると 500俵のお米を 作っている人は500人の命を
つないでいる。 で、500俵の作る田んぼにいる 生き物たちの
命もつないでいる。
何故なら ここにいる生き物ってのは 私たちの代で絶滅させちゃあ
だめなものなんだ。
これは 子供達や孫たちに申しおくる 水田と同じ財産なんだ。」
K 「メダカなんかも そうですものね。」
I 「そうなんです。
だからね、ますますね、 生き物の価値ってものが 今クローズ
アップされる時代になってきたんです。」
K 「不耕起で稲を作って いい稲、丈夫な稲、そしていいお米。
で、農家の人たちの労働力を 軽減させてあげて 農家、農業を
やる人が ちゃんと続いてくれるといいなってのが
やぱり そこから 始まったんじゃなかったですか?」
I 「はい、そりゃそうです。はい。」
K 「この時代 生き物の豊かなことだとか 今の時代にあったよさがある
ってことになると思いました?」
I 「いや、思いませんでしたね。 やっているうちに 毎年毎年
何かが飛び出してくる。
だから 今ですね、2ヘクタールとか1ヘクタールとか小面積で
やっていても こういうあれが 出たわけですよ。
これが 50ヘクタールとか100ヘクタールていう 大きな
面積でやると 何が飛び出してきて 何が起こるか それこそ
ツチノコなんかが 飛び出してくるかもしれない。」
K 「珍しい生物が出てくるかもしれない。」
I 「いや わかりません。」
2002年9月 実りの季節を迎えた佐渡。
酒かすを肥料に苗を育てた 佐々木さんの田んぼは 少し収穫が落ちました。
それでも満足だと言います。
佐々木 「年数を重ねていくうちに その小さい微生物とか 小さい
小動物が いっぱいいるっていうことは やっぱり それを
エサにするより大きな生き物っていうものも 自然と増えて
くるのかなっていう・・」
将来 本当にトキが舞い降りる田んぼとなれば 米の価値が上がるはず そう考える農家もいました。
井川 「結局その 佐渡なら佐渡 そのトキと結びついた中で まあ
本来なら ここ島中が そういうあれになりゃあ一番。
そうすりゃ 佐渡ブランドで出ていくんだ と思うんだけどなあ。
うん。 そこまでは いかんけど そういうふうにならんかなあ
と 思っているけどな。」
「佐渡トキの田んぼを守る会」の活動が 始まって8年。
18軒の農家は工夫を加えながら 岩澤さんが教えた 耕さない田んぼの米作りを 続けてきました。
その結果 多くの生き物が田んぼに戻ってきています。
今年になりトキを野生に戻すための 準備が始まりました。
18軒の農家の田んぼに トキは舞い降りるのか?
9月末には ついに放鳥の時をむかえます。
生き物のいのちを育む田んぼ その耕さない田んぼが 新たな展開を見せはじめています。
しだいに 農家だけでなく一般市民が取り組んだ 耕さない田んぼが 増え始めたのです。
次回は 耕さない田んぼでの米作りに挑む 若い世代の姿をお伝えします。
http://www.nhk.or.jp/shiruraku/200809/wednesday.html