かんがえる 其の二
13・3・27
日本語の「考える」は、「神返る」と言う意味らしいが、漢字を使用するなら「知・チ」の方が、その意味に忠実な使い方ではないだろうか。
「知」の漢字は「矢+口」の組み合わせで出来ており、意味は手にしている「矢(道具)」を神に返上して、行為の無い無垢の状態で、神の言葉を受け取ると言う意味である。
「知」の文字は、手にする物を全て手放し、行為の原因になる物を捨てて、無心にならなければ、神の声は聞こえない理を教えている。「知る」とは、天地自然の中で、自分がどう生きるかという指針を、神から得る理・ことを表しているのだ。
日本語の「かんがえる」との言葉は、「神かえる」の意味であり、人間が生きる為の指針を、神より受け取ろうとしている人の、姿を現している言葉なのである。其れを思うと、神棚の前にぬかずく人の姿が、意識の中に浮かび上がってくる。
「考・コウ」の漢字は、老人と言う意味を持ち、「かんがえることが 巧である」と言うところから創られている。「(おいがしら)」は、背の曲がった老人の姿を現し、「ヒ(巧)」も曲がると言う意味を表しているので、「老」とは「長寿の老人は 知恵を持っている」と言う理・ことになる。
そうすると、昔の時代には、若いうちは「考えが少ない」と言う思想が有ったのかもしれない。「考」に成る為には、「知」の作業を積み重ねて行くしかないのだ。其の、積み重ねる方法を「省」としたのである。
「省・セイ」は、「かえりみる」と言う日本語に当てられた漢字だが、「漢語林」で調べると、「省・セイ・ショウ」は「眚・生+目」の文字と同様に「はぶく」の意味なので、「かえりみる」との意味に使うのは間違いだと言うことに成り、
「少ない目」ではなく「生じる目・すみきった目」で、「過ちを見る」の意味の漢字を探す必要が有るだろう。
例えば、精査(せいさ)するの意味に当たる様な文字である。
「有」の「月」が、本来は「肉」であったのと同じ事が、ここでも起きているのだ。「生」は「清」に通じ、澄み切っていると言う意味を持つ。「よく見る。視察する役所」と言う意味も出てくる。
日本語の「はぶく」に当てる字は「省・目+少」からなる文字が、別に有ったにもかかわらず、「かえりみる・眚・生+目」を「省・少+目」と書き誤った混乱から、「省」が用いられている様である。
現在の政治の混乱は、この字の誤りを、其のまま継承している事が原因のように思われてくる。行政組織である「省庁」の「省」は、本来「役所に働く者は精進して 清らかな意識で 国民の生活をよく見る、視察する」と言う意味だったはずである。
現在の、「省」の役人はそれを行っていない。むしろ皮肉な事に、「少ない目」の「はぶく」と言う意味の方が、現実を能く言い表している様である。
すなわち、間違った字である「省」に、巧く意味付けされるのである。
冗談の様な話だが、これは冗談では済まされない事だ。
「省庁」の「庁」は、本来は「廰(广+耳+直+心)」である。これは、「建物の中に 真っ直ぐな心を持つ者がいて 民の訴えをよく聞いている 姿」から出来ている文字である。
簡略化された「庁」だからと言って、「建物(广)の中にくぎ(丁)がある」の意味ではない。くぎ(丁)など有っても、民の声は届かず、それこそ金槌でも持って行って、叩くしかない。
世の中を良くする為には、国民の代表である政治家や、公務員である行政官が、清い心を取り戻し、さらに目覚めた目を持って「目が生じた(眚・生目)意識が生まれた。正しい目を取り戻した。」と、自覚して欲しいのである。
其れを行うのが、「知」の作業である。自分の手から、金、権力、派閥、利権を離して、神に一端全てを預けて、実直な気持ちを取り戻し、新たな知恵(かんがえ)を神様から授かるのだ。其れが、「知る」であり「神返る」である。
その理が、政治家に理解されない限り、日本の政治は変わり様がないだろう。
平成13年3月27日
礒邉自適
「知・チ」は「矢+口」の組み合わせ。口は、いのる言葉の意味。矢はやの意味。矢をそえていのり、神意を知ることから「しる」の意味を表す。
【字義】@しる。㋐心に感じしる。㋑みとめる。「認知」㋒さとる。理解する。「覚知」㋓見分ける。識別する。㋔おぼえる。記憶する。㋕交わる。顔見知りになる。親しむ。「知人」㋖つかさどる。治める。取りしまる。「知事」Aしらせる。また、しらせ。「通知」「報知」B知っている事がら。知識。また、知識の多いこと。「知者」Cちえ。「知恵」知る働き。Dしりあい。知人。知友。また交わり。交友。Eもてなし。待遇。F耳目の欲望。
「考・コウ」は「老+丂」の組み合わせ。老は、背の曲がった老人の意味。丂も曲がるの意味。長寿の老人の意味を表す。借りてかんがえるの意味に用いる。
【字義】@かんがえる。㋐思いはかる。思索する。「長考」「思考」㋑観察して明らかにする。㋒比較検討する。㋓きわめる。調べる。吟味する。また、その結果を示す論文。「考究」「論考」Aうつ。たたく。=攷 Bなる。成す。Cおわる。終える。D老いる。長生きする。E父・亡父。⇔ 妣・亡母。Fこころみる。試験する。また試験。評定。
漢語林より