2008/6/15

ザネッティ ロメオとジュリエット N響 A定期 6/15  演奏会

本当は河合優子&東京ニューシティ管のショパンを聴く予定だったが、個人的な事情で、それが無理となったため、1時間遅れで、原宿にやってきた。N響のA定期である。曲目は2つとも大好きだし、指揮者もピアニストも評判の良い人だったからだ。ただし、好きな曲目だということは、点が辛くなることをも意味する。残念ながら、大満足とはいかなかった。しかし、それなりに楽しめたことだし、不満を並べ立てたくなるほどでもない。好きな曲をそれなりの水準で聴ければ、驚くような名演ではなくても、こころに上がってくるものがあるということなのか。指揮者は、マッシモ・ザネッティ。コンマスは堀正文。

前半は、マルティン・ヘルムヒェンを独奏に迎えた、ベートーベンのピアノ協奏曲第4番。ヘルムヒェンはドイツ人だが、さほど背が高いわけでもないけれど、手足が長いせいか、椅子に座るとすごく大きく見える。ああ、オーラが出ていると思ったが、弾いてみると、かなりきれいな打鍵をするので、最初の印象はよかった。あまり無理にピアノを鳴らそうとすることもなく、非常に自然なピアニズムをもっている。ただ、全体において、やや演奏に精彩を欠くのは、細かいパッセージを丁寧に弾きすぎていて、メリハリがない点である。これは、有名な同門のイ・ユンディにもいえることで、アリエ・ヴァルディの一門に共通する特徴であるのかもわからない。

しかし、第2楽章に限っては、こんな美しい演奏は聴いたことがないというほど、繊細な詩情に満ちた演奏である。オケのほうも抑制を効かせて、ヘルムヒェンの打鍵をいたわるような感じであった。美しいという以上に、孤独を感じさせる透徹とした雰囲気。同じように、レーガー編によるバッハのアンコールも、神さまがバックについているとはいえ、バッハの孤高の営みをレーガーなりのロマンティシズムで写し取ったイメージを、しっかりと印象づけて見事だった。このピアニスト、どこまで伸びていくかわからないが、良いものをもっている。ちなみに、前日のアンコールはモーツァルトだったそうで、そのあたりのサーヴィス精神にも器用なものを感じさせる。

後半は、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」。全曲版ではなく、3つの組曲からザネッティが任意に選択したナンバーを抜粋しての演奏である。全体的によくまとまった演奏といえるが、予想を上回るようなものはほとんどなく、曲の素晴らしさを確認したにすぎない。下手にいじくり回すよりはいいが、スケールの小ささは否めないところだ。ザネッティは適度にカンタービレを効かせ、バランスのいい演奏をするが、いまのところ、まだまだ基本に忠実という域を出ないのではないか。

印象に残った部分を挙げると、まず、〈少女ジュリエット〉の部分がある。まず、クラリネットのキュートな音色、フルートがジュリエットのテーマを吹くときの、チェロ首席(木越洋)のオブリガードなどが、きわめて印象的だ。〈仮面〉は、舞踏会のワルツが自然に浮き上がりよい演奏。つづく〈ロメオとジュリエット〉は2人が愛しあう大事な場面だが、ゆたかな響きで、飽きさせない演奏でよかった。最後、木管の高音から、弦のたおやかな弾きおわりまで素晴らしい。〈ティヴォールトの死〉はまとめすぎて、感情のぶつかりが弱いように思えた。

あとは、やはり終幕の音楽は、いつ聴いても涙が出るものだ。今回の演奏では、〈ジュリエットの墓の前のロメオ〉における渾身の演奏が胸を締めつける。ジュリエットの「死」を悼んで、叩きつけるような弦のボウイングが響きと視覚的な面から効果的で、ここだけは、ザネッティにやられた。だが、その分、〈ジュリエットの死〉には、さらに奇跡的な美しさが求められるのだ。その点で、非常にレヴェルの高い不満は残ったが(弦の音色にさらなる透明さ、もしくは、情感の美しさがなければならない)、最後、死んでしまうとしても、愛するロメオと折り重なって、やっと一緒になれた・・・という感じで、斃れたロメオの胸に抱かれるように眠っていくジュリエットの、内面の幸福をほんの僅かだけ感じさせる、明るめの響きはよかったと思う。それを生かすために、最後、N響の弦にもうすこし粘ってほしかったのである。音が切れても、作品を噛み締めるように続いた静寂は、素晴らしかった。

ザネッティは演奏が終わると、すこし赤く染まった顔をこちらに向けて、すこし感極まったという風をみせていた。これはヘルムヒェンもそうだが、まだ未熟なところがあっても、素直で、威張ったところのないのは、好感が持てる。マッシモ・ザネッティといえば、日本でこそ有名ではないが、いま、欧州では飛ぶ鳥を落とす勢いだというのに。とにかく、大満足ではないものの、清々しい午後だったと言っておこうか。


【プログラム】 2008年6月15日

1、ベートーベン ピアノ協奏曲第4番
 (pf:マルティン・ヘルムヒェン)
2、プロコフィエフ 組曲「ロメオとジュリエット」より
  〈モンタギュー家とキャピュレット家〉〈ある情景〉〈朝の踊り〉
  〈マドリガル〉〈少女ジュリエット〉〈仮面〉
  〈ロメオとジュリエット〉〈ティヴォールトの死〉
  〈ロメオとジュリエットのわかれ〉〈西インドの奴隷娘の踊り〉
  〈ジュリエットの墓の前のロメオ〉〈ジュリットの死〉

 コンサートマスター:堀 正文

 於:NHKホール
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