2007/11/4

大塚直哉 監修 ディドとエネアス @浜離宮朝日ホール 二期会CP公演 11/3  演奏会

さて、今日は文化の日。こんな日にこそ、素晴らしい公演は待っていた。この日、浜離宮朝日ホールでおこなわれた、パーセル「ディドとエネアス」を中心とする公演は、池田直樹を代表とする二期会の子カンパニー、直樹企画(二期会コンサートプランニング)によるもの。この有限会社は、二期会の本公演とは別に、所属の歌手を使った公演企画を任されることになっているそうだ。その仕組みはよくわからないが、世界的に有名なコンティヌオ、鍵盤奏者である大塚直哉を音楽監督・指揮者に迎えたことで、思いも寄らないような成果をもたらした。

メンバーは、ロールをうたう歌手とコーラスの一部が二期会所属のプロ歌手。管弦楽は、桐山建志をコンマスとする臨時編成の古楽アンサンブル、コーヒーカップ・コンソート。これに、東京女学館の高等部で音楽を選択する(音楽専門学校ではない)生徒のうち、有志17名がコーラスに加わった。ここがポイントのひとつになる。

さて、演奏会の前半は、器楽のみによるプログラム。ヴァイオリンと通奏低音によるソナタから、大編成の曲までが演奏される盛りだくさんの内容だった。まず、桐山と大西律子のヴァイオリンによる「2本のヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ、通称「黄金のソナタ」で幕を開ける。2つのヴァイオリンの安定度が高く、コンティヌオのチェンバロ(大塚)とガンバ(西谷尚巳)が目一杯に暴れられる。

2曲目には、この日の主役であるヘンリー・パーセルの弟、ダニエルによる秘曲「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ」が演奏される。これが前半の演奏の白眉となったが、大塚=桐山という、このコンサートの大黒柱2人による堂々たる演奏により、兄よりも敬虔な感じで、しかも、こころの深いところをぐっと抉るような曲想が、見事に浮かび上がった。あとで舞台となる部分に上がった桐山のヴァイオリンの、伸びやかで色彩ゆたかな演奏につけて、大塚のチェンバロも雄弁にうねりを見せる。緩徐楽章ではチェンバロがリードになっており、そうした部分での大塚の繊細、かつ、ダイナミックなパフォーマンスには瞠目させられた。チェンバロの醍醐味でもある表現のダイナミックさと、それとは対照的でさえある繊細な詩情が、ここまでバランスよく融和したチェンバロ奏者には、なかなか出会えないものだろう。

3曲目の「7声のイン・ノミネ」からは、弦楽合奏になる。バロック・オーボエとリコーダーが華やかにうたうシャコンヌ(劇音楽『中国人の男女による踊り』より)から、あとのオペラをも想起させる多彩な感情が詰め込まれた「シャコニー」、そして、再び木管楽器が入って華やぎ、曲名とは裏腹に上品な舞曲が、ときに型を打ち破るように暴れだす「怒涛の踊り」(歌劇『予言者、またはダイオクリージャン』より)までは、続けて演奏された。特に、真ん中の「シャコニー」に織り込まれた音色と感情の豊かさは、コーヒーカップ・コンソートの卓越したアンサンブル力を証明し、後半への期待を増幅させるものだった。これらの曲目では、大塚がヴァージナルを弾きながら指揮をした。ここまでで、相当な満足感あり!

演奏会形式によるオペラのほうは、前半で見せつけたコーヒーカップ・コンソートのフォローもあり、安心して見られる舞台となった。管弦楽の後方に小舞台が設えられ、簡単な演技がついた。魔法使い役の村林徹也がストーリー・テラーを兼ね、あらすじを説明しながらの舞台進行は、二期会の研究会などでお馴染みのやり方である。村林だけは帽子を被り、それらしい衣裳に身を固めている。

歌手たちは、大塚のセレクションによるものか、バロック向きのアジリタの利く、基本のしっかりしたきれいな声の持ち主ばかりが選ばれている。特に、二期会本公演ではワルキューレのうちの1人でワーグナーに出演することが決まっている、北沢幸のディド役が一歩抜けているように感じた。ふくよかな体つきながら、見かけによらない丁寧な発声で、伸びもいい。ヴィブラートは必ずしも抑えていないが、それにもかかわらず清潔感のある歌声が凛々しく、ディド役にはピッタリだ。終幕の大事なアリア「私が地に伏すとき」は、後奏の美しいコーラスと合奏を引き出すにふさわしい気高さを讃えていた。

一方のエネアス役の三塚至も、第2幕で、魔女扮するゼウスの使いにイタリア行きを命ぜられ、涙のうちに旅立ちを決意する場面で、先のディドの嘆きの歌と対をなす繊細なパフォーマンスを見せた。また、敵役のバスを歌った村林は、歌唱の面でも存在感が抜群であった。そのほかの歌手も小粒ではあるものの、よく劇を支えてくれたと思う。

さて、今回の上演のポイントは、合唱であった。二期会所属のコーラスに、17人の高校生が加わったアンサンブルを、積極的に浮かび上がらせたのが成功の要因である。特に、学生ほど熟しきっていない高校生たちのコーラスが、むしろピュアな音楽的愉悦となって、素直に響いていくるのが効いた。いろいろな役割で随所に埋め込まれている合唱を引き立てるために、この若い声が果たした役割は重要だった。東京女学館では昭和5年から受け継がれるという、青いシルクのリボンが飾る、オーソドックスながら洗練された白いセーラー服の美しさも、目を惹いた。

パーセルの音楽はシンプルだが、要所にふかい陰翳を散りばめ、明るく典雅な舞曲風のシーンとの対比が興味ぶかい。チェンバロ・ヴァージナル、ガンバ、リュート・ギター、ヴィオローネによる通奏低音セットが、厳しく音楽を緊張させている。中でも、栗田涼子の弾くヴィオローネの響きは、忘れがたいものになりそうだ。2本のガンバ(西谷、深沢美奈)もよく効いているし、佐藤亜紀子のリュートやギターもこころをくすぐる。

どこが良い/駄目というよりは、全体のチームワークが、非常に高い次元で結びついた理想的な公演である。前半から楽しくて仕方がなく、オペラおわってからは、今年いちばんの感動を覚えた。見事な企画!

【プログラム】 2007年11月3日

第1部 古楽器による合奏

 ・2つのvnと通奏低音のためのソナタ ヘ長調
 ・vnと通奏低音のためのソナタ ヘ短調 (D.パーセル作)
 ・7声のイン・ノミネ
 ・シャコンヌ ハ長調〜中国人の男女による踊り
 ・シャコニー ト短調
 ・怒涛の踊り〜歌劇「予言者、またはダイオクリージャ」

第2部 パーセル 歌劇「ディドとエネアス」(演奏会形式)


 管弦楽:コーヒーカップ・コンソート(コンマス=桐山 建志)

 音楽監督・指揮 大塚 直哉
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