「この前からお客さんが多くて、忙しくって、でも楽しかったの」と誠子さんは言った。 「それでお見限りだったのね」彼女はとても人柄が良く、妹のような気がして時々手伝ってもらっている。
「サンポーニャって楽器ご存じですか。葦の茎を組んで作る管楽器だけど」
「日本で言えば笙みたいなものね。笙は竹だけれど、そう言えば見たような気がする」息子が持っていたのを思い出した。
「サンポーニャの音色に魅せられて、のめり込んで、とうとうサンポーニャの奏者でデビューした主人の先輩がいらしゃったの。ルミマンタ井上、石頭井上ですって、笑っちゃうわ」
ご主人によると井上先生が何時も行く楽器屋さんが「初志貫徹、貴方は相当がんこですね。ルミマンタと言う名前はどうですか」と言って、ルミマンタ井上に決まったとのこと、意志が強い、頑固、石頭と三段論法らしい。
「インターネットで出して見てください、お写真が出ています」出してみる。
「素敵な人じゃないの、石頭のイメージじゃないわね。好奇心いっぱい、未来一杯、コンドルの様に自由に」
「其れがね綺麗好きで何時も整理整頓されて、奥さんも要らないくらい、サンなんか指でスーッと埃を見たり」
「人は見かけによらないものね。複雑怪奇でミステリアスな程深みを感じるのかも知れないけれど、私は埃で死ぬことはないと思っている人間だから」
「ルミマンタさんのスペシャルライブが川名山町のレストランパイの美で6月21日(土曜日)にあるの、曲目はアンデスの夜明け、海の神、コンドルが飛んでゆく、ある日の花々で、ルミマンタ井上の奏でるメロディとワインに酔いしれる素敵な時間を!ですって。
私はピアノ、主人はバイオリンで合奏してと言われているけどびびちゃうな」
「素敵じゃないの、ディナーをいただきながら魂はアンデス高原をさまよう」
サンポーニャは閉塞した葦の管を吹いて音を出すパンパイプの一種で一本の葦は一つの高さの音しか出せないから長さの異なる葦を束ねて十三音を出す。前列に7本後列に6本束ねてあるが、前列はまあいいとして後列を吹く時大変でないか、急速に移動しなければならないとき唇を切ったりしないか、サンポーニャを数年でマスターするなんて大変な事だと思う。
ギリシャ神話の妖精パン(家畜の守り神)はシューリンクスと言う笛を持った姿で描かれているが、パンはある時シューリンクスという美しい妖精と出合って恋をして彼女の姿を追いかける。
シューリンクスは逃げ場に困って葦に姿を変えてしまった。
パンは葦を切って束ねて笛を作り、何時も持ってあるいた。これがパンパイプの由来なのだろうか。
4000年以上も前葦の原で折れた葦に風が渡る度にヒューヒューとなりさまざまな音色を奏でるので葦で笛を作って吹き出したとも聞いたことがある。

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