ピンポーン インターホンが鳴った。
「松田です」「どうぞ、入って」「先生居る。今日は先生に用事があります」
出てみると石のテーブルの上に小さいカレイとハゼとかにが、せいぜい全長6センチ以内、1匹、1匹丁寧にカレイの群れとハゼの群れと蟹を配置して海の中を泳ぎ回っているように並べてある。
蟹は沢蟹のように甲羅の長径が1,5センチ位。一番大きいので5センチ。
「こんなの取ったらいけないわ」
夫は「カレイは引きが強いから、小さくても手ごたえがあっただろう」
「普通の引きだったから釣り上げると、全部これなんです」
「釣りのお師匠さんも奥さんもみんなで釣ったのがこれだけです。先生のとこへ半分置いてゆきます」折角の貴重な収穫なのだから
「から揚げにすると美味しいわよ」「から揚げってどうしたらいいのですか」
「から揚げ粉があればそれをまぶして油で揚げれば良いのだけど、無ければ片栗粉をつけても良いわ」
そこへフェンスの外から「松田さんお魚見せにきてるの。先生はお優しいから黙って聞いて下さっているのね」奥田氏夫妻。
松田氏は富山県生まれ、純朴で暖かくて礼節もわきまえている。
一寸保守的で頑固なところがあるが家庭的。10年余の付き合いだが、全く年の離れた弟のような存在だ。
会社の休みやひまがあれば何でも挑戦して、お赤飯や魚の串焼きなどプロ級、出来ると直ぐ持って来てくれる。
最近まで天ぷらが恐かったのだが、それもマスターした。
この前はナマコを釣ってきて内蔵を煮て持ってきた。乙な味がするがナマコの内臓と知って少し辟易、その上インターネットで調べた内臓の料理の方法をプリントにして置いていったが、ナマコのグロテスクな解剖図を見ただけで吐き気がして、料理に挑戦する気にはならない。
彼は何故か私にも先生、先生とよぶ。
「先生と呼ばれる程の馬鹿でなし。先生は止めてよ」と言うがその癖は直らない。
親、兄弟にも言いにくいことが有ると尋ねにくる。
3年ほど前「この頃全然意欲がなくなって、体はだるいし、頭はボーとして、胸はどきどきするし、仕事の能率は悪いし体は熱っぽくてイライラする、何処か悪いのでしょうか」
「もしかしたら、男の更年期じゃないの。私は更年期を知らずにきたけど、友達がよく言ってた症状と似ているわ。
きっと男性ホルモンの分泌が低下して体に支障をきたし自律神経失調のようになっているのじゃない。それに慣れて落ち着いてくると正常に返るとおもうわ」
「更年期障害は女性にあるものでしょう」と情けない顔
「女性ホルモンの低下が女性の更年期なれば、男性にも男性ホルモンの低下で起こるはずでしょう」
数ヶ月で元気になったが、ある日また深刻そうな顔をして「先生、相談があるんですが」
「今度は何」
「息子が急に彼女を連れてきて、赤ちゃんが出来ちゃったんだけどと言った、お前何言ってんだ、たわけといった。どうしたら良いんでしょう」
「彼女はどんな人なの」「良い人のようだけど、まだ生活も出来ないのに何考えてんだか」
「良い人だったらとても良い縁談よ、赤ちゃんつきだし。人口受精なんて心配もないしね。生活も一人口は食べられなくても二人口は食べられるって言うでしょう。家庭を持てばいやでもしっかりするわよ」
その後の彼は生き生きして、誕生、お宮参り、節句とその度にお赤飯を炊いてお裾分けしてくれる。誕生日には富山で親戚一同招待して大きな鯛のかまぼこのカットした頭の部分とお赤飯を届けてくれた。

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