2018/5/15

4445:再会 3  

 フォルクスワーゲン ポロのエンジンを止めた。サイドブレーキのレバーを左手で引いて、ドアミラーをたたむ小さなボタンを回した。

 ドアミラーは動作音を小さく響かせて折りたたまれた。ドアを開けて外に出ると、灰色の曇り空からかすかに雨が降っていた。

 彼女の自宅は8区画の建売住宅の一つである。玄関の脇のチャイムを鳴らした。のんびりとした電子音が3度鳴るのが聞こえた。するとやや間があってから「はい・・・!」という声がその小さなスピーカーから響いた。

 私は自分の名前を告げた。アルミ製の玄関ドアが開いて彼女が現れた。彼女と対面するのは3年ぶりである。

 彼女と目を合わせた瞬間、なんとも懐かしい感覚が身をよぎった。彼女は3年前とそれほど変わっている風ではなかった。何故かしらほっとした。

 リビングダイニングに通された。ソファセットに座った。リビングには彼女の夫が大事にしていたオーディオセットがあった。それらは主を失っても、そのことを全く認識していないかのように静かに佇んでいた。

 出されたお茶を一口飲んでから、事前に知らせていた幾つかの必要な書類に目を通していった。

 自宅の固定資産税課税通知書を確認すると、自宅の土地と家屋の評価額は1,500万円ほどであった。相続税の評価額では、土地の価格がもう少し高くなるであろうから、概算で1,800万円ほどの相続税評価となるであろう。

 何行かの預金残高証明書に並んだすべての数字を電卓ではじくと2,000万円ほどになった。さらに予想よりも金額が大きかったのが、生命保険金であった。

 彼女が受け取った生命保険金は全部で約6,000万円であった。さらに会社から支給された死亡退職金が2,300万円。

 法定相続人が2名であるので、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を考慮しても、相続税の申告書を税務署へ提出する必要性はありそうである。

 自宅の敷地については小規模宅地の特例を使えるし、配偶者の特別控除を最大限活かせば相続税を払う必要はないはずである。そういった一連のことをゆっくりと説明した。

 彼女は、神妙な表情で私の説明を聞いていた。彼女は1968年生まれである。今年誕生日を迎えたなら、ちょうど50歳になる。50歳の年齢としては、今流行りの「美魔女」と評してもいいだろう。

 「今回は、すべての遺産を○○さんが相続すれば、相続税はかかりません。そのうえで贈与税の非課税枠を活かして、娘さんに数年にわたって贈与されるのが、税務上は一番有利でしょう・・・今回、娘さんが預金などの財産を相続すると相続税が若干出ます・・・」

 私は説明をしながら、彼女の瞳の奥を何度か探った。その色合いの中に何かしら非日常的なものを無意識のうちに求めていたのかもしれない。




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