2017/3/15

4020:20:03  

 和田峠の序盤は決して激坂ではない。メンバーの多くはこのエリアは自重して、その後に続く厳しい斜度に備えて脚を温存する。

 私はラップパワーの数値をいち早く250ワット以上に持っていこうと、序盤から強めの負荷を脚にかけ続けた。

 サイコンのラップパワーの数値は順調に上がっていった。そして、和田峠の斜度もぐっと上がってきた。和田峠は一旦斜度が上がると、その後は緩むエリアがほとんどない。

 激坂を上る時にはなるべく峠道のはるか先を見ないようにする。ロードバイクの前輪の手前2,3メートルのあたりのところに視線を集中させるのである。

 そうするととりあえず心が折れない。体に大きな負荷をかけ続けるヒルクライムは、精神的な要素によっても結果が大きく異なってくる。

 もちろん筋力や心肺機能の強さが一番大切な要素であるが、メンタルの強さもかなり要求される。張り詰めた心の糸を緩めずに一定以上のテンションで保ち続けないと、辛さに負けてずるずるとペースが落ちていってしまう。

 私が信奉する「ワット教」では、その心の糸のテンションを保つ手法として「平均ワット数」を用いる。

 和田峠を上っていく際の目標平均ワット数は250であった。サイコンに表示されるラップパワーには、計測開始ポイントから現時点までの平均ワット数が表示される。

 その数値を250ワット以上に最後まで保ち続けることが今日の最重要課題である。和田峠の激坂はこれでもか、というくらいに連綿と続く。

 脚の力だけでは推進力がたりない場合には腕でハンドルを引き寄せる力も利用して厳しい斜度の坂を上り続けた。

 そして、15%を超えるような斜度になってくると、多少苦し紛れ気味であるが、ダンシングでやり過ごしていった。

 斜度が厳しくなると瞬間的なパワーは300ワットをゆうに超える。その斜度が少し緩むとパワー数値はすとんと落ちる。

 パワーが落ちると、クランクを回すペースをグイグイと上げた。「もっとパワーを・・・」ワット教の「マントラ」を唱えながら厳しい行程を進んだ。

 和田峠の峠道は何度も大きく曲がる。そのカーブは大半が圧倒的な斜度を有している。タイムを少しでも短縮させたいならばインコースを通るべきであるが、その厳しい斜度に脚の筋肉が疲弊しきってしまいそうで、思わずアウトコースを通ってしまう。
 
 後半に入ってくるとさすがに脚に踏ん張りが利かなくなってくる。先頭を行くリーダーの背中は視界から消えていた。
 
 その後に続く2名のメンバーの背中は辛うじて視界の中に納まっていた。追いつくことは現実味が薄い願望であったので、取り敢えずサイコンのラップパワーの数値のみに集中して気持ちを保った。

 和田峠は尻尾まであんこが詰まったたい焼きのように終盤まで厳しい斜度が続く。ゴール直前のみ斜度が緩む。

 そこまではひたすら我慢して上った。そして、その最後のエリアに差し掛かり、ダンシングに切り替えてスパート体勢をとった。

 しかし、疲弊した脚の筋肉からは思ったような力強い推進力は絞り出せなかった。ゴールしてサイコンのラップボタンを押した。

 タイムは「20:03」であった。平均ワット数は251ワット。平均ワット数は目標を達成したが、2度目の20分切りにはもう少しで手が届かなかった。

 峠の茶屋の前にあるサイクルラックにKuota Khanを掛けて、座った。激坂を上り切るのは辛い。しかし、上り切るとその辛さの反動であろうか、一種の爽快感が全身を駆け巡る。

 先程目の網膜にしっかりと焼き付けられた数字が再度脳内のスクリーンに投影された。「20:03」・・・「あと3秒か・・・ラストスパートでもっと針先が振り切れるまでに走るべきであったか・・・あの後半の激坂エリアでもう一歩踏ん張ってペースを上げるべきであったか・・・平均ワット数があと1ワット高ければ、20分を切れたのか・・・」そんなことをうつらうつらと思った。

 そして、その網膜に焼き付いたかのような数字からの連想であろうか「Wadia23」のことが思い起こされた。

 水曜日の夜「オーディオショプ・グレン」で最後に聴いたCDプレーヤーである。とてもコンパクトな形状のCDプレーヤーである。

 他の2台がトップローディング方式であったのに対してWadia23はオーソドックスなトレイ式であった。

 トレイ、ボタン、インジケーター、ディスプレイなどの配置が微妙なバランスで構成されている。その微妙さ加減がとても良い。

 ぱっと見は、ばらばらでバランスが悪いように見える。しかし、よく見るとバランスが取れている。その各要素がお互いに引っ張り合うようなテンションが見る者を惹きつける。Wadiaの一連のCDプレーヤのなかでも、このWadia23は特異な存在感を有してる。




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