2010/2/9

1428:喫茶コーナー  

 その小さなケーキ屋さんには喫茶コーナーがあった。喫茶コーナーといっても小さなテーブルと2脚の椅子のセットが三つ窓際に置かれているだけで、それほどちゃんとしたものではない。

 近所の人間がケーキとコーヒーや紅茶のセットを頼んでひとしきりおしゃべりをして帰るためのささやかなスペースである。

 ここのケーキは美味しい。コーヒーもそこそこいける。そして、ここの店主は写真が趣味のようである。その喫茶コーナーの壁やテーブルにはちゃんと額に入れられた写真が数多く飾られている。

 それらの写真はすべて白黒で風景であったり人物であったり様々であるが、とてもセンスの良いもので、小さく写真雑誌の名前とともに「入選」と誇らしげに書かれているものもある。

 私が座った一番奥のテーブルには二人の子供がその同じテーブルに座っている写真が飾られている。屈託のない笑顔を見せている二人は小学生の兄と妹のようである。その写真の横には店主が書いた文章が添えられていた。

 「てっちゃんは小学校5年生。父親を亡くした1年前から新聞配達の手伝いをしている。月に一度アルバイト代をもらうと妹のちーちゃんを連れてケーキを食べにくる。頼むのはいつもショートケーキひとつとミルクティーをひとつ。二人でテーブルにすわり、ちーちゃんが美味しそうにケーキを食べる。ちーちゃんはてっちゃんにもケーキを食べるかと訊くが、てっちゃんはお腹がすいていないからと、妹に食べるよう勧める。小学校5年生の育ち盛りである、朝と夕方1時間ほど新聞配達の手伝いをしている、お腹が空いていないわけはないのであるが、ニコニコしている。ケーキとミルクティーの代金500円はアルバイト代の入っている茶色の封筒から払われる。残りのお金はその夜におかあさんにそっと渡される。」

 その文章を読んで、改めてその写真に見入る。男の子は愛情のこもった眼差しで妹を見ている。小学校低学年らしい妹はケーキを眺めている。二人とも透き通った笑顔である。

 頼んだケーキとコーヒーを口にしながらその写真の二人の顔を眺めていたが、やがてその写真はぼやけて見えなくなってしまった。薄汚れた心が少しばかり洗われた気がした。




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