2017/8/18

4176:四十肩  

 8月に入ってから夏とは思えないような天候が続いている。空はいつも灰色で、雨が時折降る。湿度は高く、空気がどんよりとしている。

 真夏の太陽はほとんど姿を見せず、梅雨のような天気である。猛暑による夏バテは避けられるが、こういった気候は、人の体にもあまり良くない影響を与えるようである。

 杉並区で整体の施術を行っている「ProFit」は、とても忙しそうである。「8月は15日以外は休めない状態・・・」とチューバホーンさんは話されていた。

 腰痛や肩懲りに悩まれている方には、この梅雨のような天気は悪い影響を与えやすいようである。容態が悪化した方からのSOSコールが多いので日曜日も仕事になるケースが増えているとのことであった。

 古くからのオーディオの友人であるハンコックさんも、肩の具合で悩まれていた。いわゆる「四十肩」である。

 かなり症状が重いようで、「ProFit」を訪れることとなった。施術の後は共通の趣味であるオーディオのOFF会をすることとなり、チューバホーンさんから私にもお誘いの連絡があった。

 そこで、今日は青梅市のクライアントでの仕事を午後5時に終えてから車で杉並区へ向かった。帰宅時間帯であったので、道は少し混んでいた。

 ハンコックさんにお会いするのは、久しぶりである。一昨年、結婚とともに真新しいマンションに引っ越されたところを訪問して以来である。

 ハンコックさんはもう15年ほどの間、WILSON AUDIO WATT3+Puppy2を使われている。きっとこのシステムの要となるスピーカーは今後も変わらないであろう。

 この名機を鳴らすアンプは Mark LevinsonのML-1とNo,23.5のペアであったが、最近パワーアンプの調子が不調のようである。

 プリも含めた駆動系の変更も検討されているようであった。チューバホーンさんのお宅には、Catbossさんの手により徹底的にモディファイされたMaranzt MODEL7がある。

 そのMODEL7、さらにはDSD変換に特化したO-DAC PROも聴いてみたい・・・という意向もあったようである。

 1時間半ほど車で走ると「ProFit」に到着した。チャイムを鳴らすと「どうぞ・・・開いてます・・・」と返答があった。玄関扉を開けて、「お邪魔します・・・」と、2階のリスニングルームへ向かった。

 お二人に挨拶をして、リスニングルームの後方にスペースを確保した。もう既にハンコックさんは一通りクラシックのCDなどを聴かれていたようである。

 チューバホーンさんのデジタルシステムは、CDトランスポートがSONY CDP-MS1で、DAコンバーターがO-DAC PRO Mk2である。

 プリアンプはMarantz MODEL7。パワーアンプはQUAD 405。そしてスピーカーはTANNOY CORNER LANCASTER。

 そのCORNER LANCASTERの下にはつい最近特注で製造された栗の木で出来たスピーカーベースが納まっていた。

2017/8/17

4175:シングルフレームグリル  

 今やすっかりAudiのアイデンティティーなっている「シングルフレームグリル」を最初に採用したのは、2005年にフルモデルチェンジしたAudi A6の3世代目モデルである。

 すでに目が慣れてしまっている現在の目からすると、むしろ大人しく感じてしまうが、当初は賛否両論が巻き起こった。12年前のことである。

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 このA6をデザインしたのは、実は日本人デザイナーである。シングルフレームグリル以外は一世代前のA6の流麗なデザインを継承している。

 初代のA6は、1994年にAudi100のマイナーチェンジモデルとして登場したので、1997年にフルモデルチェンジして登場した2世代目のA6が、実質的な初代のA6とも言える。

 その2世代目のA6は従来のAudi車の保守的でいま一つ垢ぬけない雰囲気を見事に脱皮して流麗なフォルムを有していた。

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 私が一番最初に乗ったドイツ車が、この2世代目のA6であった。特にリアのデザインが秀逸で、そのラインと造形を満面の笑顔で毎日眺めていたことを思いだす。

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 1997年というとちょうど20年前のことである。そんな昔のモデルであるのに、決して古臭さを感じさせないデザイン力は相当なものである。

 20年経過してAudiのデザインはやはり変わった。良くなったという人もいれば、悪くなったという人もいる。デザインは個人的な好みで好悪の判断が分かれる。

 そのAudiの今後のデザインの流れを決定づけるモデルがつい最近正式に発表された。Audiの旗艦モデルであるA8である。

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 シングルフレームグリルは横にさらに拡大され、その6つの角はよりシャープになり、フロントヘッドライトの睨みもより鋭いものとなった。

 最近のAudiのデザインの流れは「より鋭く、より直線的に・・・」という勢いの良さを感じさせるもので、新しいA8もその流れにしっかりと乗っている。しかし、私の目には、何故かしら20年前の2世代目A6の方にヨーロッパ的な奥深さを感じてしまう。歳のせいであろうか・・・

2017/8/16

4174:正丸丼  

 「正丸丼」は売り切れてしまうことがある。今日は人数も多かったので少し心配であったが、「11人分大丈夫ですか・・・?」と女将に確認すると「大丈夫です・・・」との返答であった。

 ほっと一安心して「奥村茶屋」の中に入っていった。店のなかは広い。天気のせいか客の姿は少なかった。

 店内は風が吹き抜けていき涼しかった。窓からはやや霞んだ山々の風景が広がっていた。しばし待っていると順番に11人分の「正丸丼」が運ばれてきた。

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 「これ・・・これ・・・」と心の中で呟きながら、テーブルに置かれた「正丸丼」を眺めた。サラダ、お味噌汁、お新香も付いてくる。

 甘辛い味噌で炒められた豚肉は実にご飯に合う。意味もなく「ご飯に合う・・・ご飯に合う・・・」と心の中で繰り返しながら、豚肉と白いご飯を咀嚼していった。

 一旦止んだ雨はまた降り出した。その雨が降る様子を眺めながら、「しかしそれにしても8月は天候が変だ・・・なんでこんなに雨ばかりなんだ・・・」と思った。

 猛暑ライドは辛い。それは確かである。例年であればこの時期は「猛暑ライド」になることが多いが、今年の夏はその点は助かっている。

 しかし、雨も嫌なものである。これで私は3回連続で途中から雨に降られたことになる。ロードバイクと雨の相性は決して良くない。

 昼食休憩を終えて、帰路についた。雨の中下るので、ウィンドブレーカーを着込んだ。路面が濡れているので、慎重に下っていった。

 山王峠・笹仁田峠を経由して帰るコースを選択したので、二つのミニバトルポイントが待ち構えている。

 どちらも上る距離は短いが、短いがゆえに瞬間的にかかる負荷は重い。300ワット以上のパワーで、どちらも上っていく。

 そしてどちらもゴール前でさらに負荷を上げて350ワット以上のパワーでスパートする。両脚の筋肉はそのパワーを発するために、じりじりと発熱する。

 二つのミニバトルポイントも無事にやり過ごした。最後までだれることはなかったので、スタミナ的にもまずまずのようである。

 2週間後は「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」である。不順な天候が続いているので天気が少々心配である。

 20km以上の坂道を上り続けるので、スタミナが必要になる。脚も体もきつくなる後半に入ってもだれることなく、走り切れることを願いたい。

2017/8/15

4173:ラップパワー  

 山伏峠を上り始めた。長い期間続いていたがけ崩れ防止のための擁壁工事は既に終わっている。なので、上り始めで止められることはない。

 その真新しい擁壁を左手に見ながらやり過ごした辺りで、サイコンのラップボタンを押した。ここからゴールの正丸峠までラップ計測する予定であった。

 ラップパワーは250ワットが目標。山伏峠を上り終えるとしばらく下りが入る。下りが入ると、その間はラップパワーがぐんと下がる。その下りで下がる分も含めて250ワットにもっていけるとかなり良い数値である。

 山伏峠は上り慣れた峠である。ラップ計測を開始してからはペースはほぼイーブン。2箇所ある斜度が厳しくなるポイントもそれほど脚を削り取られることなく通過できた。

 サイコンのラップパワーはほぼ予定通り250ワットで推移していた。山伏峠の峠道の終盤は林の中を走る。

 斜度はそれほど厳しいものではない。脚が疲れ切ってしまうとペースが落ちがちになるが、今日はどうにかペースを維持できていた。

 山伏峠の頂上へ向かって少しペースを上げた。頂上直前はダンシングに切り替えて、クランクにパワーを込めた。

 山伏峠の頂上を過ぎる際に確認したラップパワーは252ワットであった。ここから下る。少し前、この下りでチームメンバーが落車した。

 怪我の程度は比較的軽傷であったが、ロードバイクのホイールが歪んでしまったため走行不能となり、自転車保険のロードサービスを受けた。

 今日は路面が濡れているので、下りは慎重に走った。何度かカーブを曲がって下っていくと、正丸峠に繋がる道が見えてきた。

 その道へ向けて右折した。サイコンのラップパワーは下りを経て238ワットまで下がった。ここからさらにその数値を上げていくべく、パワーを増していた。

 260ワットから280ワットぐらいのハイパワーで正丸峠を上り始めると、前方には先行スタートしたメンバーに後発スタート組が追いついて、ペースダウンして一緒に走っていた。

 こういう場合は、ここでバトルエリアは終了する。私もその背後に付いてペースダウンした。心拍数もラップパワーの数値もすっと下がっていった。

 少し尻切れトンボになってしまったが、比較的高めのパワーを維持して走ることができた。2週間後は「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」である。

 本番では20km以上の距離を上ることになる。その間高い負荷を体にかけ続ける。20km以上の距離を平均パワー250ワットで走り切ることは、私の実力では到底無理であるが、230ワットぐらいの平均パワーで走り切りたいところ。

 目標タイムは1時間25分である。昨年のタイムは1時間25分8秒であった。たった8秒であるが、されど8秒という感じで、その8秒が心に刺さった。

 6月の「Mt.富士ヒルクライム」では1時間25分を切ることができた。どうにか今年は「富士でも乗鞍でも1時間25分切り」を達成したいところである。

 正丸峠の頂上にゆったりと到着した。上り始めた時に降っていた雨は止んでいた。いつものように上りきったメンバー全員で記念撮影を済ませた。

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 今日は正丸峠の奥村茶屋に寄って、「正丸丼」を食する予定であった。奥村茶屋の女将さんに「11人分大丈夫ですか・・・?」と確認すると「大丈夫です・・・」との返答であった。

2017/8/14

4172:COLNAGO  

 今日のロングライドには初めてチームのロングライドに参加する女性メンバーがいた。その彼女のロードバイクは、COLNAGO Mondo。色は赤である。

 そして、2名のチームメンバーがCOLNAGO V2-Rを発注済みとのこと。今、バイクルプラザR.T.ではCOLNAGOがきているようである。

 実は私もCOLNAGOに乗ったことがある。初めて購入したロードバイクがCOLNAGO CLXであった。コンポーネントはShimano 105が装着されていた。

 COLNAGO CLXに乗っていたのは3年間。その間は、週末に1時間かけて多摩湖のサイクリングロードを2周していた。

 COLNAGO CLXに乗っている時には、長い距離を走ることはなく、ヒルクラムに挑戦することもなかった。その後、ORBEA ONIXに乗り換えた際にチームに入れてもらった。

 ということで、COLNAGOには多少思い入れのある私としては、チーム内でCOLNAGOが急に注目を集め始めたことは、嬉しいところである。

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 山伏峠の上り口までは上り基調の道が続く。空を覆う雲の色合いはやや灰色が濃くなってきていた。

 やがて見慣れた山伏峠の上り口に到着した。公衆トイレでトイレ休憩をした。しばし脚を休ませた後、3名のメンバーが先行スタートしていった。初めてロングライドに参加したメンバーも先行スタート組に含まれていた。

 普通5分ほど経過してから後発メンバーがスタートするが、先行メンバーがスタートして5分ほど経過したので、「そろそろ行きますか・・・」と走り出そうとした時に、雨が急に降り出してきた。

 そこで、後発スタートメンバーは引き返して一旦雨宿りをすることに・・・雨が小止みになるのを待った。

 8月に入ってから天候がおかしい。ぐずついた天気が続いている。まるで梅雨のような気候である。

 少し雨が弱くなってきたので、後発スタート組も重い腰を上げることにした。雨に濡れながらヒルクライムのスタートである。

2017/8/13

4171:再起動  

 朝の7時にKuota Khanに跨って、自宅を後にする段になってパワーメーターの電池を交換していなかったことに気付いた。

 前回走った際の途中からパワー表示がサイコンに出なくなった。パワーメーターのボタン電気が切れてしまったようであった。

 「途中でコンビニに立ち寄ってボタン電池を購入しないと・・・」

 集合場所であるバイクルプラザに向かう途中でコンビニに立ち寄って、ボタン電池を購入した。それをサイクルジャージの背面ポケットに入れて、再度走った。

 バイクルプラザに着いて、電気交換を済ませた。しかし、相変わらずパワー表示が出ない。「あれっ・・・おかしいな・・・」と何度もサイコンをいじってトライしてみるが、パワー表示は出ないまま。

 結局、パワー表示が出ないままスタート。しばらく走ってから「電源を切ってみるか・・・」と思い立ち、サイコンの電源を一度切った。その後電源を入れなおして、サイコンを再起動してみると、難なくパワー表示が出た。

 ほっと安心して、走っていった。「サイコンもコンピューターだから固まったら再起動するのが良いのかもしれない・・・」そんな風に思った。

 8月27日に行われる「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」まで残り2週間である。そのためか今日のロングライドの参加者は多めであった。

 目的地はチームでのロングライドの定番コースでる「正丸峠」である。走り慣れた道を進んだ。気温はこの時期としては低め。空は灰色の雲が隙間なく覆っていた。

 青梅街道、岩蔵街道を走り抜けていき、いつもの休憩場所であるファミリーマート飯能上畑店に立ち寄った。

 ここには、サイクルラックがあるが先客が占有していたので裏手の駐車場にある倉の前にロードバイクを立て掛けた。

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 ここで補給食を選択した。店内に入ってしばし迷った後、「メキシカンサンド」を選んだ。その名の通りスパイシーなソースが刺激的。

 補給食をパクつきながらしばしの談笑タイムを過ごした。実はメンバーのうち2名が同じロードバイク・フレームを発注したことが今日判明した。

 そのフレームはCOLNAGO V2-R。V2-Rは軽量フレームでありながら高い剛性とエアロ性能を有していて、実戦的なレーシング・フレーム。受注生産なので、納車は4ケ月後とのこと。早く実車を見てみたい。

 コンビニ休憩を終えて、山伏峠の上り口を目指してリスタートした。ここからは上り基調の道が続く。

2017/8/12

4170:カセットデッキ  

 「カセットデッキ・・・?また渋いところ突いてくるね・・・」私は、「ゆみちゃん」がカセットデッキの購入を検討していると聞いて、少々虚をつかれた。

 確かに彼女の部屋には、YAMAHAのレコードプレーヤー、SONYのプリメインアンプそしてDIATONEのスピーカーというスリーピース構成のオーディオセットがある。

 カセットデッキを購入して、これに加えれば、「ねこ」のカセットテープを、そのオーディオセットで聴くことができる。ラジカセで聴くよりは良い音で聴けるはずである。

 カセットデッキは随分と昔に活躍したオーディオ機器である。音楽ソースがレコード中心であった時代、レコードは高価であった。

 私が中学生の頃、LPは1枚2500円が定価であった。中学生にとっては相当高価な代物である。一方カセットテープは数百円で買える。

 友人が持っているLPをカセットデッキを使って録音すれば、お金を余りかけずに音楽を楽しめる。また、チューナーを持っていれば、FM放送からエアチェックしてカセットテープに良い音で録音することもできた。

 FM放送の番組表を載せたFM雑誌がいくつも出ていたのがこの時代である。「週刊FM」「FM fan」「FM レコパル」・・・そういったFM雑誌にはオーディオのことも毎号載っていた。私は買えもしないオーディオ機器の記事を食い入るように眺めて読んでいた。

 「どのくらいで買えるの・・・やっぱりヤフオク・・・?」

 「そうですね・・・この前ざっと見ていたんですけど・・・1万円以上はどれもするみたいです・・・ジャンクなら安いんですけど・・・動かないんじゃしょうがないし・・・」

 「それはそうだよね・・・修理代も馬鹿にならないだろうから・・・動作品でないと・・・でも、ヤフオクだとちょっと心配だね・・・どれも古いものだから・・・」

 そう言いながら私はスマホで検索してみた。「懐かしい・・・」そう思いながらスマホの小さな画面に展開する、FM雑誌などでその写真を眺めた様々なメーカーのカセットデッキを眺めた。

 TEAC、AKAI、NAKAMICHI、SONY、VICTOR、YAMAHA・・・いくつものメーカーの名機が目に飛び込んで来た。ヤフオクではその多くがジャンクである。

 動作保証があるものは結構いい値段が付いている。いくつものカセットデッキを眺めていて、ある一つの製品に辿り着いた時に、スマホを操作する手の動きが止まった。

 その製品はSONY TC-FX77。発売は1981年11月。「これなんてどうかな・・・良いデザインしていると思うけど・・・」私はスマホの画像を「ゆみちゃん」に見せながら言った。

 彼女はその画像を覗き込んだ。そして「確かに良いデザインですね・・・あと色使いが上手い・・・ここのブルーとオレンジがアクセントになってますね・・・」彼女はそう答えてくれた。

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 彼女も自分のi-Phone7で画像を見せてくれた。「これも良いと思ったんですよね・・・」その画像を覗き込むとそれは「YAHAMA K-9」であった。

 YAMAHAらしい端正で清潔感溢れるデザインである。メーターも美しいアナログメーターが搭載されている。カセットホルダーを排したデザインが斬新である。

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 「私、このメーターが好きなんです・・・針が一生懸命動いていて健気な感じで・・・」

 彼女はそう言った。「確かにそれは一理ある・・・」1980年代に入り、針式のメーターは一気に消えていった。

 この時代に敢えてカセットデッキを購入するとなれば、思いっきりアナログチックな方が相応しいのかもしれない・・・

 「彼女の審美眼は相当レベルが高い・・・」改めてそう認識した。「レコードプレーヤーもYAMAHAだし、良いかもね・・・」私はそう答えた。

 カセットデッキ・・・今は既に過去の遺物と化した美しい品々・・・「Mimizuku」の店内で、スマホの画面で見たカセットデッキは、夢の機械のようにきらきらと輝いていた。

 その機械が動き出し、音楽を奏でる。その姿をもう一度見たいと思った。カセットテープが回り、メーターが俊敏に動く・・・その姿をもう一度目で追ってみたいと・・・

2017/8/11

4169:ねこのコネ  

 「ゆみちゃん」はいつもと変わらない風に入ってきた。「こんばんわ・・・」と挨拶して、カウンター席に座った。

 彼女は和歌山出身であるので、ふとした言葉の端々に関西風のイントネーションが混じる。彼女の「こんばんわ・・・」は、尻上がりのイントネーションではなく、「こ」にアクセントが軽くつく。

 CF-2580の中で順調に回転をしていたクラフトワークのミュージックテープはA面の収録曲を全て終えて、無音の領域に入り込んでいた。

 そこで一旦ストップボタンを押してテープの回転を止め、さらにイジェクトボタンを押してカセットテープを取り出した。

 取り出したテープは、ケースに慎重に納め、ボックスにしまった。CF-2580は古い機械であるが、正確に動いている。操作ボタンを押すときに発せられるカチャっという操作音もカッシリとしていて安心感がある。

 「ゆみちゃん」は、ナポリタンとアイスコーヒーを女主人に頼んだ。そして、おもむろに鞄の中からカセットテープの入ったケースを取り出して言った。

 「出たんです・・・『ねこ』の4枚目のアルバムが・・・今回もCDと一緒にカセットも出ました。タイトルは・・・『ねこのコネ』です・・・!」

 「『ねこのコネ』・・・?意味不明だな・・・まあ、これまでの3枚のアルバムタイトルも意味不明なものが多かったけど・・・」

 私は微笑みながら、そのカセットケースを手に取った。インデックスカードの表面には、真ん中に緑色のネクタイを締めた黒猫がいて、その左にはハトが、そしてその右側にはスーツを着たサラリーマンの男性の後ろ姿が、軽妙なイラストで描かれていた。

 その黒猫が、サラリーマンをハトに紹介しているという風情である。両者は軽くお辞儀をしている。ユーモアのあるイラストである。

 「ねこ」は、彼女と同じ和歌山出身のインディーズバンド。彼女は贔屓にしていて、今まで出たアルバムは全て持っている。

 変わっているのは、CDだけでなく、カセットテープでもアルバムを全て販売していること。彼女はCDとカセットテープを両方購入している。

 彼女はSONY製の古いラジカセを持っている。一度そういった懐かしいラジカセを修理して販売している専門店に一緒に行った。その時に購入したものである。

 CDの方はパソコンで読みこんでスマホに登録しイヤホンで聴いているようである。自分の部屋ではカセットテープをそのSONY製のラジカセに入れて聴くと話していた。

 「かけてもいいですか・・・?」

 彼女が訊いてきたので、「もちろん・・・」と答えて、手に取っていたカセットケースを彼女に返した。

 彼女は慣れた手つきでカセットテープを取り出して、CF-2580の中にいれ、プレイボタンを押した。

 どこかしらロボットの目のようにも見える、二つのハブがゆっくりと一定のペースで回転し始めた。

 スロウなテンポのフォークロックが流れ始めた。その良さを理解することは私にはできないが、彼女は曲のテンポに合わせて軽く顔を上下させて、ご満悦のようであった。

 「オーディオの方は調子はどう・・・?」

 彼女のオーディオは一度カートリッジの不調があった。その後は大丈夫のようであるが、なんせ古い機械であるので、心配になって訊いてみた。

 「大丈夫です・・・今のところ・・・レコードも増えたんですよ・・・もう20枚ぐらいになったかな・・・」

 「結構増えたね・・・今一番聴くのは・・・?」

 「五つの赤い風船の『おとぎばなし』かな・・・」

 「また、渋いね・・・」

 「ちょっと暗いかな・・・」

 「まあ、30歳の独身女性が聴くレコードじゃないかも・・・」

 そんなとりとめのない話をしばらく続けていた。彼女のナポリタンも出来上がり、アイスコーヒーと一緒に彼女の前に置かれた。

 カセットテープが回転するスピードに合わせるかのように、ゆっくりとそのオレンジ色の物体は、白い皿から彼女の胃袋の中へと移動していった。

 「あっ・・・そうそうtaoさんに訊こうと思っていたんですけど、カセットデッキを買おうかと思っているんですけど、どうですか・・・?カセットデッキ・・・?」

 彼女はふと思い出したようにそう言った。私は残り少なくなっていた自分のアイスコーヒーの最後の部分をストローで吸い上げているところであった。

 「ズズッ・・・」と黒い液体とともに空気もストローの中に入り込んでしまう音がした。その音を感知して、吸い込むのを止めた。

2017/8/10

4168:CF-2580  

 「Mimizuku」のナポリタンは美味しい。そのレシピを完成させたのは、数年前に亡くなった女主人の夫であった。

 かなり研究熱心な人であったようで、一度、そのレシピノートを見せたもらったことがあった。古ぼけた大学ノートには、几帳面な字体で様々なことがかき込まれていて、幾つものカットアンドトライが繰り返された過程が記録されていた。

 女主人はそのレシピを忠実に守っている。普段の動作はのんびりとしているが、ナポリタンを調理する段になると、彼女の二つの手は実に手際よく動く。

 ナポリタンとアイスコーヒーがカウンタに並んだ。ナポリタンからは湯気が真っ直ぐに上がっている。

 彼女の夫が遺したものは、レシピノートだけではなかった。このカウンターに置かれているSONY製のラジカセと、数多くのミュージックテープも彼の遺品である。

 「Mimizuku」では有線放送はかかっていない。唯一この1970年代に製造されたラジカセのみが音楽を店内に提供する道具である。

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 型番はCF-2580。1970年代の半ばに製造販売されていた。この時代のSONY製のラジカセは実に良い顔立ちをしている。緊張感を持ったきりりとした表情である。

 二度ほど修理を経ているが、いまだなお現役で活躍している。そのCF-2580に投入されるべきミュージックテープは、数多くのコレクションのうちの一部が、小物入れのボックスに入れられてカウンターに置かれている。

 私はそのボックスを覗き込んだ。10数本のミュージックテープの中にクラフトワークの「マンマシーン」のテープがあった。

 「珍しいな・・・これ・・・」と目についたそのミュージックテープをボックスの中から取り出した。
 
 小さな長方形のケースからカセットテープを開放して、SONY CF-2580の中に移動させた。そしてカチッとした触感を保っているPLAYボタンを右手の人差し指で押し込んだ。

 ミュージックテープは、長かった眠りから覚めて、4.76cm/sのスピードで回転を始めた。そして音楽が含まれている部分に達して、無機的なクラフトワークの世界が流れ始めた。

 音が大きくなり過ぎないようにボリュームダイヤルを微調整した。その音楽を背景にして、ナポリタンを食した。

 SONY CF-2580、クラフトワーク「マンマシーン」、そしてナポリタン・・・それらが三位一体となって、空間と時間をわずかばかり歪めているかのようであった。

 時刻は徐々に7時に近づいていった。ナポリンタンを食べ終え、クラフトワークのミュージックテープのA面がやがて終わろうとする頃、「Mimizuku」の扉が開いた。扉が開かれたことを示す鈴は、店内に乾いた響きを解き放った。

2017/8/9

4167:中野坂上  

 コインパーキングにVW POLOを停めて、徒歩で数分歩くと、白い外装の古い5階建てのビルがある。

 築40年以上が経過していると思われるそのビルの1階にあるのが、喫茶店「Mimizuku」である。この喫茶店もビル同様古い。

 大きな通りに面しているわけではないので、店の前はそれほど人通りがあるわけでもない。その喫茶店はひっそりと佇んでいる。

 木製の扉を開けた。扉の上部に取り付けられた鈴が乾いた音をたてた。店の内部には4人掛けのテーブルが二つと2人掛けのテーブルが一つあり、そしてカウンターには椅子が4つ並べられている。女主人が一人で切り盛りしている。

 私はいつもカウンター席に座る。カウンター席の一番奥の椅子に腰を掛けて、寡黙な女主人にナポリタンとアイスコーヒーを注文した。

 時刻は午後6時半になっていた。店内には私以外の客は1名のみであった。奥まったところにある2人掛けのテーブルに腰かけ、新聞を読んでいるその客は、白い髪を短く刈り込んだ初老の男性であった。

 「Mimizuku」が入っているビルの4階には「オーディオショップ・グレン」がある。「オーディオショップ・グレン」は、英国製のヴィンテージオーディオ機器を中心に扱っている。

 我が家のオーディオ機器の主要な製品はこの「オーディオショップ・グレン」から購入したものである。

 この店でTANNOY GRFを見かけたのは4年前のことであった。搭載されているユニットはモニターシルバーであった。

 さらにキャビネットはイギリスオリジナルであるので、その希少価値は相当高い。しかも1台でなく2台のペアであった。

 ペアと言っても、その2台は同じ時期に相前後して製造されたわけではない。TANNOY GRFにモニターシルバーが搭載されていた時代はまだモノラルの時代であるので、その当時のオーナーは1台を購入してモノラルレコードを聴いていた。

 その後ステレオ時代が到来すると、もう1台購入する必要があった。そういった事情を反映してか、その2台は明らかに製造された年が違うようで、取り付けられているエンブレムの形状が違っていた。

 この貴重なGRFを購入したのが「オーディオショップ・グレン」との付き合いはじめである。その後LEAKのPoint One StereoとTL-10、さらにはMarantzのModel7とModel2も「オーディオショップ・グレン」から購入した。

 そういった経緯で時折このビルを訪れるようになって、1階に入っているこの古い喫茶店にも時折足を運ぶようになった。

 足を運ぶ頻度は徐々に増えていった。やがて「常連」に近い存在となった。そういった「常連」は、何人かいるようであった。

 そのなかの一人が「ゆみちゃん」である。彼女は和歌山出身でこの店の近くで一人暮らしをしている。

 カウンター席で度々合うようになり、言葉を交わすようになった。平日のこの時間帯にこの店に来ると、彼女と遭遇する可能性が高かった。



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