2018/2/17

4358:検知機能  

 そのうえで、ほんの少し前に聴き、ORACLE Delphi6のターンテーブルに置かれたままになっていたレコードに再度ZYX OMEGAの針先を落とした。

 そのレコードはハイドンのチェロ協奏曲第1番である。チェロはミクローシュ・ペレーニ。彼は、ハンガリーのチェロ奏者である。

 レーベルはQualiton。ハンガリーの国営レーベルであり、1960年代半ばにその名前をHungarotonに変更した。1960年代初めの録音である。共産圏のレコードらしくレコードジャケットは薄くぺらっとしている。

 私と大川さんは神妙な面持ちで耳を傾けた。「確かに変わる・・・」私は心の中ですぐさま呟いた。

 リスニングポイントとスピーカーとの距離を部屋の狭さから十分に取れないために感じられる音の切迫感が薄らぎ、その結果として音楽がゆとりの表情を携えるようになった。

 それまでの余裕のない一生懸命さが和らぎ、サウンドステージが奥に下がる。杉並公会堂の大ホールは、そのエアボリュームからすると「中ホール」と称するのがふさわしいものであるが、その杉並公公会堂の大ホールから十分な広さの大ホールに移動したような感じであろうか・・・

 「なんだか部屋が全体として大きくななったように感じる・・・」そう心の中で独り言を言って、試しに目を閉じてみた。

 目を閉じて音だけを聴いていると、狭いはずのリスニングルームが広がったような錯覚に陥る。もちろん、目を開けるとリスニングルームは狭いままである。

 第1楽章が終わった。大川さんは「私には変わったように感じられました。次はレコードではなく、CDにしてもらえますか・・・先ほど聴いたショスタコービッチの交響曲第5番の第4楽章を聴かせてください・・・」と言った。

 ORACLE CD2000の円形の窪みには、CDが一枚据えられた。セミヨン・ビシュコフ指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の演奏で、レーベルはPHILIPS。ドイツが統一される前のCDであり、MADE IN WEST GERMANYの印字がある。

 より編成が大きくなったこの交響曲は、激しくうねるフォルテッシモと静かに潮が引くようなピアニッシモの対比により聴く者の心から高揚感を否応なく引き出す。

 その第4楽章が終わった。大川さんは「やはり違いますね・・・クリアでクリーンです・・・メルセデス・ベンツの新型A-CLASSのような変わりようですね・・・」と少し意味不明なことを言った。

 「先日新型A-Classが正式発表されたのですが、そのエクステリアデザインはクリアでクリーンなものに変わりました・・・現行のA-CLASSのフロントマスクはややもするとくどいところがありどこかしら威圧的な表情をも感じさせるのですが、新型は雰囲気を大きく変えてきました。」

 「その表情はクリア・アンド・クリーン・・・額縁を装着して聴くと、部屋の響きがそんな感じに変わります・・・」
 
 そして大川さんは、手許のiPhone 8 PLUSを操作して画面に表示された新型 A-CLASSの写真を見せてくれた。

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 確かに変わった。すっきりとクリアな外観である。私の部屋の響きも「額縁」により変わったようである。それは「クリア・アンド・クリーン」であると大川さんは表現した。私の耳にはリスニングルームの広さが一回り大きくなったように感じられた。
 
 それが事実であることを検証する術はないが、自分の聴覚中枢は確かにそのように検知した。大川さんの聴覚中枢も表現は違ったが似たような方向への変化を検知したようである。

2018/2/16

4357:オブジェ  

 「これですか・・・パイオニアのプリアンプ・・・良いデザインしていますね・・・この時代の日本の製品らしく、気合がしっかりと入っていますね・・・」

 大川さんは、リスニングルームの右側に三つ並んだYAHAMA GTラックの真ん中の上段、一番目立つ場所に置かれたパイオニア C21を見てそう言った。

 「Model7の代役でお借りしているのです・・・Model7ほどには音楽を歌わせることはありませんが、良い仕事してますね・・・という印象を持ちます・・・特にフォノイコライザーの実力は、その当時の販売価格が5万円とはおもえないようなものです。あと、スイッチやノブの触感が良いです・・・軽々しさがまったくないです。」

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 私は大川さんにリスニングポイントに置かれているイージーチェアを勧めながら、そう答えた。

 大川さんは、そのヴィンテージのイージーチェアをしげしげ眺めながら、「これは、誰のデザインですか・・・?」と訊いた。

 大川さんのリスニングルームには、ハンス・J・ウェグナーがデザインした3人掛けのソファであるGE236がリスニングポイントに置かれていた。

 デンマーク製のヴィンテージ家具に興味を持たれている大川さんは、我が家のリスニングルームに置かれているイージーチェアに興味を持たれたようである。

 「これは、アルネ・ヴォッダーがデザインしたものです。チーク材を使っていて、このアームの造形が素晴らしいので、一目ぼれしました。アームがジェット機の翼のような形状をしているのです。」

 例の「額縁」が入ったトートバッグは、部屋の外に置かれていた。その状態でCDで2曲とレコードで2曲聴いた。

 CDはショスタコービッチの交響曲第5番第4楽章とブルックナーの交響曲第7番第1楽章、そしてレコードは、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲第1楽章とハイドンのチェロ協奏曲第1番第1楽章である。

 「C21のフォノイコ、良いですね・・・まあ、この時代はアナログしかない頃ですからね・・・力の入れ方が違いますね・・・」

 4曲を聴いた。1時間近い時間が経過した。そして例の物体が入ったトートバッグがリスニングルームに招き入れられて、取り出された。

 エアパッキンが取り外されて「額縁」が姿を現した。その姿は少々異様なものである。現代美術のオブジェのように見えなくもない。つまり、意味不明な形状をしているのである。

 その名称の通り額縁状のそのアイテムはリスニングポイントンの背後にあるアップライトピアノの向こう側の壁に設置された。

 重量は軽く、背後にひもがついているので、壁にピンをさしてそれにひもを引っ掛けると簡単に設置できた。

2018/2/15

4356:額縁  

 我が家のリスニングルームは長方形をしている。長いほうの辺の長さは4.1メートル。短いほうの辺の長さは3.2メートルである。

 床面積は4.1×3.2=13.12uである。関東間の8畳間は、12.39uであるから、ほぼ8畳ほどの広さということになる。

 4人家族が暮らす家にオーディオ専用ルームを持つことは、一般的にはとても困難なことであるので、贅沢は言えないが、「もう少し広ければ・・・」という思いが頭をよぎったことは一度や二度ではなかった。

 しかも、このリスニングルームはオーディオ「専用」ではない。妻のアップライトピアノとの同居を余儀なくされている。

 もともと応接間であった部屋を防音仕様にリフォームする際に、「ピアノの練習も時間を気にせずにできる・・・」と妻をどうにか説得した経緯があるので、これはやむを得ないことである。

 スピーカーは短辺側の両コーナーに設置してある。そのスピーカーはTANNOY GRFである。搭載されているユニットはモニター・シルバーで、キャビネットは英国オリジナルである。

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 文化財的な価値もある貴重なスピーカーをインターネットでたまたま見つけ、後先考えずに購入してしまった。

 8畳の広さのリスニングルームには大きすぎるスピーカーであることは明白であった。GRFの前に使っていたのは、TANNOY CHATSWORTHである。

 GRFより二回り以上小さいスピーカーである。そのスピーカーでちょうどバランスが良かったのであるから、どう考えてもGRFはこの部屋にはオーバーサイズである。

 それ故「もう少しリスニングルームのエアボリュームがあれば・・・」という思いが、沸騰した湯からぼこぼこと気泡が沸き立つように、心の中から湧き上がったのは自然の理である。

 そんな思いを常日頃心の底に押し隠していた私にとって、先日高円寺にお住いの大川さんのお宅で体験した「額縁」は、やはり気になる存在であった。

 その「額縁」は、グールドさんも大川さんのお宅で体験されていて、「あるなし実験をしたのですが、やはりあると部屋が広くなったような感覚があるんですよね・・・懐が深くなったような感じですか・・・」と、先日話されていた。

 大川さんのスピーカーはGershman AcousticsのGrande Avant Gardeである。すらっとしたその形状からして空間表現が得意なスピーカーであり、そのリスニングルームは我が家よりも広めなので、スピーカーの大きさと部屋のエアボリュームのバランスはとれている。

 その状況でも「額縁」は、良い効果をもたらしたようである。ということは、我が家のようにスピーカーの大きさと部屋のエアボリュームがバランスを欠いている状況では、さらに高い改善効果がもたらされるのではないかと期待しているのである。

 そんな私の心境を見透かしてか、大川さんが今日我が家のリスニングルームを訪問してくれた。少し大きめのトートバッグにはエアパッキンで厳重にくるまれた「額縁」が入っていた。

2018/2/14

4355:通行止め  

 相模湖の淵をなぞるように走った。津久井湖方面へ向かう道には結構長い上りの箇所もあり、大垂水峠で酷使した脚の余力はさらに削られた。

 3両編成のトレインはやがて左手に津久井湖を望むことができるエリアに入ってきた。湖面は空の青を映して、穏やかな姿をしていた。

 津久井湖が見えなくなって少し走っていくと、「ステーキ ガスト」が角にある交差点が見えてきた。この「ステーキ ガスト」は、Mt.富士ヒルクライムからの帰りにいつも立ち寄る店である。

 この交差点を左折して、城山湖へ向かった。道はすぐに上りに転じる。序盤からしっかりとした斜度の上りが襲ってくる。

 心拍数はすぐさま170を超えていった。斜度が厳しいエリアはそれほど長くなく、やがて緩む。緩んでもそれほどペースを上げる余力はなかった。

 城山湖へ向かう上り道は終盤に入っていった。すると路面に残雪が見えてきた。車が通った轍部分はアスファルトが見えている。

 その細長く続くラインを外れないように注意しながら慎重に進んだ。城山湖の手前には広い駐車場があるが、そこまでは轍ラインをどうにか進めた。しかし、その先は轍ラインもなく、ロードバイクでの走行は不能であった。

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 仕方なくここでヒルクライムは終了となった。白い景色を背景に記念撮影を終えてから、上ってきた道を下った。

 そして、市街地を抜けていく道を延々と進んだ。3連休の中日であったが、車はそれほどの混み具合ではなかった。

 帰路を順調にこなしていった。いつもは多摩川サイクリングロードに一旦出てから府中街道を北上することが多い。

 しかし、「多摩サイにしますか、尾根幹で行きますか・・・?」とのリーダーの質問に「尾根幹にしましょう・・・」と即答した。

 多摩サイのほうが体にははるかに優しい・・・しかし、ついつい尾根幹を選択してしまった。尾根幹はチームメンバーがトレーニングに使うコースで、アップダウンが繰り返される。

 上りでもがいて下りで休む、これを繰り返せばインターバルトレーニングになる。めいっぱいもがけばかなり過酷である。

 ここまで相当体を酷使している。それでもそこそこのペースでこのトレーニングコースを走り切った。

 尾根幹を走り終えて府中街道を北上した。この道も緩やかな上りである。3名は一体化したようにシンクロして走っていった。

 恋ヶ窪の交差点で2名とわかれて、その後は単独走となった。今日は激坂こそなかったが、平均スピードは最後まで高いまま維持された。そのため蓄積された疲労度はかなりの高得点であった。

2018/2/13

4354:相模湖  

 甲州街道を進んでいくと、右手に高尾山が見えてきた。その上り口近くには高尾山口駅がある。その駅舎は新しく斬新なデザインである。

 「このデザイン、○○さんが好きそうですね・・・」と、設計士として活躍しているチームメンバーのことを噂した。

 やがて、道は圏央道の高尾インターに達する。圏央道の下を潜るようにして先へ進んだ。ここから道は緩やかに上り始める。

 峠に向かう最後の信号がある「東山下橋」までは、無理のないペースで走っていった。その「東山下橋」から、タイムトライアルする予定でいた。ここからだと頂上までの距離は3.5km程である。

 平均斜度は緩めで5%あるかないか・・・となるとスピードは上がるので、しんどさはやはりいつもと変わらない。

 「東山下橋」の信号は青であった。サイコンのラップボタンを押した。ここからペースを上げた。

 ただし、久しぶりのロングであり、1週間前は風邪で体調を崩したので、無理のないペースを心掛けた。

 パワーは230ワットを目安に飛ばしすぎないように注意した。スピードが上がり、心拍数も上がっていった。

 風邪によりトレーニングもできなかったからであろうか、思っていた以上に心拍数の数値は高めであった。

 170代後半の回転数で古びたエンジンは回っていた。残念ながらターボチャージは未装着であるので、一気にパワーアップする機能は持ち合わせていない。

 ほぼイーブンのペースで走っていった。残り1kmくらいから脚の疲れが先日の大雪のように降り積もってきた。

 斜度が緩くなると、脚は休もうとする。サイコンの10秒平均パワーの数値が下がる。それを目にして弱い自分を説得する。

 ギアを上げて、重めになったクランクを回した。大垂水峠は斜度が厳しい峠ではないが、最後は心拍数180で頂上に達した。

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 峠の頂上から少し先に行ったところにあるガードレールにKuota Khanを立てかけて、脚を休ませた。

 遠くに山並みが見えた。雲は減ってきて、天気は良くなってきた。この天気なら相模湖はきっと暖かくまったりできそうだと思った。

 3名は相模湖方面へ向かって下っていった。下り道は何度も曲がっている。曲がる方向に体重を移動して、ロードバイクを傾けながら、ひらひらと下っていった。

 目印である「さがみこ歯科」の建物のすぐ手前で左折して相模湖に向かった。下りきって相模湖が見える交差点で止まった。

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 相模湖は普段と様子が違った。普段は人が少なく、のんびりとした時間が流れている相模湖であるが、今日は「かながわ駅伝」が行われていて、そのゴール地点になっているようで、大会関係者が多くいた。

 そのため、いつものように湖畔でのんびりと日向ぼっこというわけにもいかなかった。恒例の記念撮影を終えて、次なる目的地を目指すことになった。

 次なる目的地は城山湖である。まずは津久井湖方面へ向かう。相模湖近くのコンビニでガソリンを補給してから、リスタートした。

2018/2/12

4353:伊豆箱根鉄道  

 3両編成のトレインはその身軽さを活かして、軽快に走り出した。走り出してすぐに西武多摩湖線の踏切に捕まった。

 その踏切はすぐそばに駅があり、白地に青いラインが入った電車が止まっていた。その車両は伊豆箱根鉄道で普段は走っている車両であるとチームメンバーが先日ツイッターに写真をあげていた。

 少し前には通称「赤電」と呼ばれる、古い時代の塗装を施した車両を走らせて鉄道マニアの話題を集めたが、今度は同じグループの伊豆箱根鉄道の開業100周年を記念してのコラボレーションのようである。

 玉川上水に沿って西へまっすぐに進み、天王橋の手前で左へ折れた。今度は南へ向かった。道は所々ウェットで、こういう路面状態の時にはタイヤが跳ね上げた泥がロードバイクについて汚れる。

 多摩大橋を渡った。滑らかな曲線を描く赤い橋梁が印象的な大きな橋を渡るとき、空が晴れ渡っていれば富士山が見えるが、今日は雲に隠れていた。

 橋を渡り終えて2度ほどアップダウンを繰り返した後、いつものセブンイレブンでコンビニ休憩をした。

 今日は暖かいので、補給食に合わせる飲み物はホットコーヒーではなく、ヨーグルトドリンクにした。

 ここでウィンドブレーカーを脱いだ。その後ウィンドブレーカーは着用することがなかった。2月のロングライドとしては異例のことである。

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 セブンイレブンの店舗の壁面にはKuotaが2台仲良く並んだ。今日はもう1台のORBEAもブラックであり、色合いが統一されていた。

 コンビニ休憩を終えて、リスタートした。甲州街道まで達して右折、大和田橋を渡った。渡り終えたところで浅川サイクリングロードに入った。

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 浅川サイクリングロードは浅川に沿って延々と続いている。この道を終点まで走り終えて、再度甲州街道に出た。

2018/2/11

4352:暖冬  

 昨晩の天気予報では「明日は暖かく、最高気温は14度まで上がるでしょう・・・」と伝えていた。最高気温14度は2月としては随分と暖かい。

 「ほんとかな・・・」と思ってしまった。厳しい寒さに痛めつけられてきたので、どうしても疑心暗鬼になってしまうのであろう。

 この冬は厳しい。低い気温が続き、大雪も降った。先々週はその大雪の影響でチームのロングライドは中止になり、先週は厳しい寒さに耐えかねて風邪をひいてしまったためにロングライドには参加できなかった。

 そういった経緯があったが、朝の6時に目を覚ましてベッドを出るとき、この時期特有の身を引き締めるような寒さはなかった。

 「あっ・・・ほんとうだ・・・あたたかい・・・」

 サイクルウェアに着替えた。前回のロングライドと同様の真冬仕様のサイクルウェアであった。「もう少し寒さ対策を緩めてもいいかな・・・」と迷ったが、結局真冬仕様でいくことにした。

 朝食を済ませて「早く起きた朝は・・・」を観終えてから、Kuota Khanに跨って走り始めた。路面は昨晩降った雨で湿っていた。

 空には雲が結構あったが、雲と雲の間には隙間が十分にあり、天気が崩れることはなさそうであった。そして空気が随分と柔らかい。

 「天気予報通りだ・・・この時期としては寒さが緩い・・・」と、少しばかり表情を緩めながら走り出した。

 多摩湖サイクリングロードを走った。路面は所々濡れていた。アスファルトには雪の残骸はもうなかったが、土や芝生の上にはまだ白いものが残っていた。

 Kuota Khanは滑らかに走った。集合場所であるバイクルプラザに到着した。今日は参加者が少なく3名であった。

 その3台のロードバイクの内訳は、なんと2台がKuotaでORBEAが1台。「随分とKuotaもメジャーになったもんだ・・・」と一瞬思ったが、これは単なる思い過ごしにすぎない。

 平地はもう大丈夫であるが、標高の高い峠道には雪が残っている可能性が高い。そこで、まず大丈夫であろうと思われる「大垂水峠」へ向かうことになった。

 大垂水峠の向こう側には相模湖がある。そこまで行き、折り返して帰ってくるか、津久井湖、城山湖を回って帰るかは、相模湖に着いてから決めることになった。

 「今日はそんなに寒くないですね・・・」「この時期としてはロードバイクで走るのに絶好の気候かもしれません・・・」そんな会話をメンバーと交わして、スタートした。

 今日のトレインは3両編成と短い。短いトレインの平均スピードは上がる傾向がある。「今日は脚を休めるポイントが少ないかもしれない・・・」そんな風に漠然と感じていた。

2018/2/10

4351:残雪  

 まずは、グールドさんが最近よく聴くCDを2枚聴かせていただいた。最初の1枚は神西敦子のピアノによるバッハの「ゴルトベルク変奏曲」から数曲聴いた。

 日本人の演奏家で初めて「ゴルトベルク変奏曲」をレコーディングして世に出したのは神西敦子である。その録音は1970年4月の27日と28日に行なわれた。

 そのレコードは日本コロムビアよりリリースされて、今は幻の名盤となっている。その音源をリマスタリングして出されたのがこのCDである。

 神西敦子の演奏は、ピアノの一音一音を実に丁寧で正確に弾いている。「ゴルトベルク変奏曲」はグレン・グールドや ロザリン・トゥーレックなど名演が多いが、この演奏もそれに伍することができるものである。

 CDケースに入っているライナーノーツには「作品と向き合う誠実な佇まいに魅了される。変奏は克明かつ芯のある打鍵で始まり、ドイツ音楽に欠かせない低音の土台の上にしっかりしたリズムを刻む。繰り返しを省き、無駄口もたたかず、颯爽としたテンポ。弱音でも「像」はくっきり美しく、玉を転がすようなタッチであっても各声部のラインは明瞭に保たれ、聴く者への語りかけを一瞬たりとも疎かにしない。」と書かれていた。

 まさにそのとおりの演奏である。グールドさんも「良い演奏ですよね・・・グレン・グールドの演奏と比較しても決して色褪せるこはありません・・・」と話されていた。

 続いてかかったのが、ブルックナーの交響曲第7番から第1楽章。演奏はクルト・ザンデルリンク指揮シュトゥットガルト放送交響楽団。レーベルはヘンスラー。

 これはライブ録音で、ブルックナーらしいゆったりとしたテンポでスケールが雄大である。「ブルックナーを聴いている・・・」という感じがじんわりと全身を包み込んでくれるような演奏である。
 
 Wilson AudioのCUBは、これらの演奏を見事にこの部屋の中に響かせてくれる。2枚のCDを聴いて、時間は1時間ほど経過した。

 「では、試してみますか・・・」

 「そうですね・・・試しましょう・・・」

 ということになり、布製の手提げバックから風呂敷に包まれた「超結界」を取り出した。風呂敷から取り出して、リスニングルームの床に置いた。

 置いたのは部屋のちょうど真ん中あたり。「置くだけなんです・・・これで音が変わったら、ちょっと驚きですよね・・・」と私は言った。

 もう一度、ブルックナーの交響曲第7番の第1楽章がかかった。二人はじっくりと音の検証を進めた。

 「違いますよね・・・錯覚ではなく・・・どう思われます・・・?」

 とグールドさんは私に振った。

 「変わったように感じます。錯覚ではなく・・・」

 「なんでしょうね・・・狐につままれたような感じですね・・・」

 理屈はまったく不明だが、脳の聴覚中枢における変化の具合については、どうやら二人とも認識したようであった。

 音の質感は上がったように感じられた。音の嗜好性は人それぞれである。その変化が良いか悪いかは、人によって感じ方が違う。

 グールドさんは「これも、先日大川さんのところで体験した『額縁』同様、良い効果があるようです・・・認めたくない気持ちのほうが大きいですが・・・」と話された。

 交響曲第7番第1楽章が終わった。もう少しだけ時間があったので、CDを神西敦子のゴルドベルク変奏曲に戻して、冒頭の2曲を聴いた。

 彼女が弾くスタンウェイのピアノの響きがより煌びやかになったように感じられた。グールドさんは腕組みをされて、首をやや右斜めに傾げていた。そして「ピアノの響きが違う・・・」と呟いた。

 グールドさんにとってこのCDは、最近最もよく聴くCDのようで、その音の質感の変化具合はすぐに分かったようである。

 「taoさんは大川さんのところで体験された『額縁』が市販されたら購入しますか・・・?」帰り際にグールドさんは尋ねた。

 「ええ、おそらく・・・」と答えて、グ−ルドさんのお宅を後にした。日はすっかりと西に傾ききっていて、気温が下がっていた。道の端々には氷の塊と化した残雪がわずかばかり残っていた。

2018/2/9

4350:超結界  

 リスニングルームに案内されて、出された珈琲を飲みながらしばし談笑した。その中で大川さんのお宅で体験した「額縁」の話となった。

 「不思議な体験でしたね・・・ああいったものははなから信じないほうなので、試したこともなかったのですが・・・」

 グールドさんはそう話されて、苦笑された。

 「私もできれば音響反射板とか、何となく納得いくものだと受け入れやすいのですが、見た目も含めて怪しさいっぱいでしたからね・・・でも、たしかに部屋が広くなったような感覚があったので、その効果のほどは認めざる得ないですね・・・」

 私も先日体験した「額縁」効果について、話した。「額縁」は、怪しいオーディオアクセサリーで有名なGe3の新製品である。

 その見た目は名前の通り「額縁」である。それを壁面に絵をかけるように取り付ける。壁に取り付けたフックに「額縁」の裏面についているひもをかけることによ、かべにかけるだけ。

 もしかしたら単なる錯覚かもしれないが、8畳ほどの広さの大川さんのリスニングルームが広がったように感じられたのである。

 大川さんも同様な感想を持たれていた。そして別の日に大川さんのリスニングルームで同じ体験をされたグールドさんもそう感じられたようである。

 3名の共通点はリスニングルームが狭いことである。3名ともその広さは8畳ほど。日本の住宅事情からすると、オーディオ専用ルームを持てること自体、かなり難しことではあるが、それでももう少し広い空間が欲しい。その欲求を少し別な形で満たしてくれる「額縁」の存在は、やはり気になる。

 しかし、「額縁」はまだ一般には市販されていないので、実際にそれぞれのリスニングルームで試してみるのは、もう少し先になりそうである。

 今日実験用にグールドさんのお宅にお持ちしたのは別のものである。「大川さんからtaoさんもGe3の別の製品をお持ちと伺いまして・・・」とグールドさんから連絡があったのは、先週のことであった。

 その製品は本来は車用のものである。製品名は「超結界」。製品名からしていかがわしい。それはこのメーカーの製品に共通している。

 サイズは横11cm奥行6cm高さ3cm。小さな箱状の物体である。これを車の中に置いておくと、車の乗り味が変わるというものである。

 その存在を知ったのは随分と前である。その当時乗っていたMercedes-Benz E350で体験した。E350の剛性感はとても高い。

 その小さな箱を車の中に持ち込むと、車の剛性感はより盤石な感じになって、サスペンションのストロークがより精細に動き、車体の揺れの収束スピードが上がった。

 結果として乗り味がスムースになり、車の重心が下がったように感じて、「変わりますね・・・」と思わず声を上げた。その体験後私も一つ購入して、アームレストの下の小物入れに入れている。

 それは、今のBMW 523iになっても継続している。その「超結界」、本来は車用であるが、「オーディオのリスニングルームに持ち込むとどうなるのか・・・」オーディオマニアであれば気になる点である。我が家のリスニングルームでは一定の変化があった。同様な変化がグールドさんのお宅でもあるのか・・・
 
 「ぜひ、試してみましょう・・・」という話の展開になり、今日グールドさんのお宅にお伺いすることになった。そして、その小さな物体はひっそりと布製のカバンの中に、購入時に一緒に送られてきた小さな風呂敷にくるまれてしまわれていた。

2018/2/8

4249:KRELL  

 JR中央線の国立駅を降りると「大学通り」と名のついた大きな通りがまっすぐに伸びている。その通りは立派な桜並木になっていて、花の季節には淡い桜色に染まる。

 そのメイン通りを中央として放射線状にサブの通りがやはり同じくまっすぐに伸びている。街がしっかりとした都市計画に基づいて作られたことが窺える。

 そのせいか、住所も分かりやすい。「西」「中」「東」・・・その意味するところが明快な住居表示である。

 グールドさんのお宅は、その国立市の「西」にある。国立駅を背にして右斜めに向かって真っすぐに続いている道を歩いて行った。

 その通りにはほぼ同じくらいの間隔で枝道が生えている。その枝道もまっすぐに続いていて、その多くが一方通行になっている。

 その中の一つの道に向かって右折した。駅からは15分ほど歩く必要がある。日中は太陽が陽光を降り注いでいるので、それほどは寒くなかった。

 国立は高級住宅地であり、綺麗な家が立ち並んでいた。しっかりと歩いて多少足が疲れた頃合いにグールドさんのお宅に到着した。

 グールドさんのお宅は設計士に依頼して建てられたもので、優れたデザイン性を有している。外壁は濃いめの茶色に塗装されている。全体はスクエアな形状のシンプルなものであるが、所々に優れたデザインセンスをうかがわせる。

 その家の一つの部屋はオーディオ専用に充てられている。部屋は4対3ぐらいの比率の長方形をしていて、8畳ないくらいの広さである。

 グールドさんはKRELL好きである。ただし現在のKRELLではない。「今のKRELLはもうKRELLではないですから・・・」とグールドさんはスパッと切り捨てられているようである。

 そのKRELLラインナップは、CDプレーヤーがCD-DSPで、プリアンプはKSL-2、そしてパワーアンプがKSA-150である。

 この時代のKRELLにはあまり詳しくないので不確かであるが、これらはほぼ同じ時代のKRELLのように思われる。

 それらの渋い色合いとデザインのKRELLのオーディオ機器たちは、分厚いガラス製の棚板が印象的なMUSIC TOOLS製の3段ラックに納められていた。

 そしてその3段ラックを真ん中にして、両サイドには、Wilson AudioのCUBが、サウンドアンカー製の専用のスピーカースタンドに乗せられ設置されていた。

 「CUBは絶対にオリジナルです・・・MK2にはがっかりしました・・・」と、グールドさんは初代CUBに対する思い入れが強いようであった。

 グールドさんは木曜日と日曜日、仕事が休みである。今日は国立市にあるクライアントに寄る予定があり、その約束の時間は午後5時であったので、3時にグールドさんのお宅に立ち寄って、2時間ほどかけて、とある「実験」をグールドさんのリスニングルームで行う予定であった。

 その実験のための道具は書類カバンとは別の薄い布製の手提げカバンの中にひっそりとしまわれていた。



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