2018/4/26

4426:乗り味  

 「裏子の権現」を下り終えて飯能駅方面へ向かって走った。メンバーの一人が「子の権現」の激坂で脚を攣ってしまったので、帰路も巡航速度は抑えめであった。

 このコースであれば上り返しがないので脚にかかる負担も大きくはない。しかし、峠はないけれど時折緩やかな上りは出てくる。

 激しく攣った後は緩やかな上りでも負担が大きい。そういったエリアではペースをぐっと落とした。

 飯能市の市街地を抜けて、八高線に沿った長い上りを走っている時であった。ここは緩やかない上りが1kmほど続いている。

 ゆっくりとしたペースで走っていると、リーダーから「行ける人は先にいちゃって・・・車が抜きずらいから・・・」との指示が出た。

 「どうしようかな・・・誰かが先に出たら付いていくかな・・・」と思っていたところ、一人のメンバーが猛然とダッシュして前に出ていった。

 「えっ・・・そういう展開・・・?」と思いながら、私もペースを上げて前に出いった。斜度は3〜4%ほどであろうか・・・・

 最初にアタックしたメンバーの背中は随分と遠かったが、一緒に追いかけたメンバーの後ろに付かせてもらってその間合いを徐々に詰めた。

 後ろからもう一人のメンバーがペースをぐいと上げてさらにその間合いを詰めていった。私はさっと乗り換えてその後ろに付いた。

 ようやく最初にアタックしたメンバーをかわし、頂上が見えた段階で後ろに付かせてもらっていて脚が残っていたのでスパートした。

 なんだか「笹仁田峠」でのスピードバトルのような展開であった。ちょっと予定外のバトルであったが、今日の二度目のもがきであった。

 「やっぱり激坂系ではなく、スピード系バトルのほうが楽しいな・・・」そんなことを思いながら帰路を進んでいった。

 すると狭山湖に到着した。ここまで来るともう「ホームタウン」という感じでほっとする。さらに多摩湖まで行ってから、私は本隊から離脱した。

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 今日はこの後杉並区の方に出かける必要があったので、自宅に帰りついてシャワーを急いで浴びた。

 さっぱりと汗を流し去ってから、BMW523iに乗り込んだ。エンジンスタートボタンを押して、電子式パーキングブレーキを解除してから走り出した。

 しばし、走った。そして思った。「BMW523iの乗り味は、カンパニョーロ ボーラ・ウルトラ+ヴィットリア コルサ スピードの乗り味と実に似ている・・・」

 どちらも実にラグジュアリーである。体に心地いい。特に激坂ライドの後の疲弊した体にはこの上質なラグジュアリー感は嬉しいものである。

2018/4/25

4425:願い事  

 前を行くメンバーの背中を追うのはローディーの習性ではあるが、それは斜度がある一定の範囲内に収まっていることが前提条件となる。

 子の権現の終盤の斜度はその範囲を大きく逸脱していた。体感的には15%以上あると思われるような斜度の激坂が最後まで続いている。

 前を行くメンバーの背中を視界に納めると、その背中と同時に激坂が目に入ってくる。その風景は気持ちを大きく抑圧する。

 結局追いつくことはできずにゴール地点である子の権現の駐車場にたどり着いた。すぐさまKuota Khanから降りて、座り込んだ。

 激坂は足を着かずに上りきるだけでもしんどい。「激坂バトル」はしんどいを通り越して過酷とも言える。そんな過酷な時間を過ごして、体は疲弊しきった。

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 「子の権現」は足腰の守護で有名である。チームでは毎年「初詣ラン」で来る。メンバー全員がゴールしてから、今日もロードバイクを手で押しながら、「初詣ラン」の時と同様に本殿に参拝した。

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 晴天に映える本殿は厳かな雰囲気。建物の中では祈祷が行われているようで、太鼓の音が盛大に響き、読経の声が朗々と響いていた。

 そんな本殿に向かって願い事を心の中でつぶやいた。

 「Mt.富士ヒルクライムで自己ベスト更新できますように・・・」

 「いや待てよ・・・『できますように』という未来形ではなく『できました・・・ありがとうございました』という完了形で言わないと、現実化しないということを何かの本で読んだな・・・じゃあ、完了形でもう一度言ってみるか・・・しかし、待てよ、まだ実現していないことを完了形で言うのは、結局のところ「嘘」をつくことになる・・・神仏に対して「嘘」をつくとばちが当たるのでは・・・」

 結局普通に願い事をした。お賽銭は100円を奮発。参拝の後は境内にある金色の巨大なわらじの前で記念撮影を済ませて、「裏子の権現」とチーム内で呼んでいる道を下った。

 その斜度はちょっと笑いが出るくらい急である。下っていくと後輪が浮いてしまうのではないかと恐怖心が生じるエリアがある。

2018/4/24

4424:たい焼き  

 天目指峠の峠道は鬱蒼とした木々に囲まれていた。そして結構斜度が厳しい。実は天目指峠はいつも「通過点」として上ることが多いので、目一杯の出力で走ったことはない。

 今日もこの後に「子の権現」の激坂が待ち構えているので、脚を使い切らないように抑えめの走りであった。

 「結構斜度がありますね・・・」「サイコンを見ると12%ぐらいですね・・・」そんな会話を交わしながら上っていくと、ようやく頂上に達した。

 峠の頂上には東屋がぽつねんと建っていた。そして峠の名前が書かれた白い道標があった。その道標にKuota Khanを立てかけて、記念撮影を済ませた。

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 そしてその向こう側へ下っていった。しばし下ると「子の権現」への上り口に着いた。毎年「子の権現」には冬に来る。

 今日は「暖かい」を通り越して「暑い」と思える気温である。冬の寒々とした風景とは少し違った雰囲気をたたえていた。

 上り口で一息入れてから、いよいよ厳しい坂へ向かって走り出した。身長が181cmと高いため体重が他のチームメイトに比べて重い私にとって「激坂」はやはり苦手である。

 「子の権現」は、厳しい坂が緩むことなく最後まで続く。いやむしろ最後に向かてさらに斜度が厳しくなるようなところがある。あんこが尻尾まで詰まった「たい焼き」のような激坂である。

 序盤はなるべく抑えめに走った。「2kmほどはできるだけ抑えて走り、体的にとても厳しくなる残り1kmでどうにかペースを上げることができれば・・・」と思っていた。

 導入部は比較的優しい。そして導入部を過ぎると斜度がぐっと上がっていく。「無理のないペースで・・・」と自分に言い聞かせた。

 最初の1kmはほぼ予定通り。それほど体に負荷をかけずに走った。心拍数は170台前半で推移していた。

 「このくらいの負荷であれば終盤まで脚はもつはず・・・」と思っていた。この辺りでリーダーがペースを上げて前に出ていった。

 その後ろを5名ほどの集団で走った。ここからはサバイバルである。集団のペースも少しづつ上がっていく。

 すると170台前半だった心拍数は徐々に上がっていき180に近づいていった。「180を超えると終盤の脚が厳しくなるな・・・」そうは思ったが、ここで緩めるとあっという間に集団から切れてしまう。

 のこり1kmあたりとなった。後方から「190・・・!」という声が聞こえた。すぐ後ろを走っていたメンバーが自分の心拍数を思わず声にしていた。

 私の心拍数はさすがに190まではいかないが182を示していた。脚が限界に近づいていた。集団は残り1kmあたりから縦に長くなった。

 私の前には2番手と3番手のメンバー背中があった。リーダーの背中はすでに視界にはなかった。

 すぐ前のメンバーの背中とは50メートルほど開いてしまった。残り距離は1kmを切った。その斜度は相変わらず厳しい。その厳しさは体の芯にぐさぐさと刺さるようであった。 

2018/4/23

4423:喫茶店  

 10台のロードバイクは走り始めた。今日の天気予報は晴れ。予想される最高気温は28度。場所によっては30度を超えることもあるという。4月としては異例の暑さとのことである。

 子の権現には山王峠、天目指峠を経由するコースで行くことになった。多摩湖サイクリングロード、旧青梅街道そして岩蔵街道と走っていった。

 Kuota Khanは決戦用ホイールとして購入したボーラ・ウルトラを履いていた。さらにそのホイールにはヴィットリアのコルサ スピード(チューブラタイヤ)が装着されていた。この両者の組み合わせにより乗り味は一気にラグジュアリーなものになり、心地よく走ることができた。

 10両編成のトレインはいつもよりもペース抑えめで走った。天気予報どおり天気は良く、気温もこの時期としては高かった。

 前回のロングライドではつけていたレッグカバーはしていなかった。この時期であればレッグカーバからニーカバー、そして装着なしと段階的に夏仕様に向かうが、今日は一気に夏仕様となった。

 岩蔵街道を走っていって圏央道の下を潜った。さらに走り、笹仁田峠の緩やかな上りを越えてから下った。

 岩倉温泉卿へ向かう細い道に入り込むと結構な台数の車が信号待ちで止まっていて、普段よりも随分後方でトレインは停止した。

 すると道の右手に大きな屋根を持つ山小屋風の洒落た建物の喫茶店が視界に入った。「CAFE YUBA」という名前の喫茶店であった。

 「こんなところに喫茶店なんてあったかな・・・?」と思った。そう思ったメンバーも多く、止まりながらそういった会話となった。いつもはさっと通り過ぎるエリアなので気付かなかったようである。

 そういえば、何度もロードバイクで走りすぎている岩蔵温泉にも浸かったことがない。「日帰り入浴サービスもあるようだから、家族を連れてきてもいいかな・・・そして、この『CAFE YUBA』に立ち寄ってみようかな・・・」そんなことを思った。

 岩蔵温泉郷を抜けて少し走るといつも休憩する「ファミリーマート飯能上畑店」に到着した。晴天に誘われたのであろう今日は多くのローディーを見かけた。この店にも先客がいたので、いつものバイクラックではなく店の前のガードレールにロードバイクを立てかけた。

 補給食を購入して店の前のベンチに座って食べた。ここは日当たりが良い。冬は嬉しいが、今日は少々暑かった。

 コンビニ休憩を終えてリスタートした。山王峠をゆっくりと越えた。県道に入り、名栗川に沿って山間の道を気持ちよく走っていった。

 ここまで来ると信号は滅多にない。ノンストップに近いかたちで進んだ。とあるポイントで右折すると「天目指峠」に繋がる道であるが、その右折ポイントは少し分かりづらい。

 天目指峠には稀にしか来ない。「アマメザストウゲ」という名前からするとなんだか華やかなイメージを抱いてしまう。

 しかし、その峠道は鬱蒼とした木々で囲まれていて、頂上からの眺望も良いわけではなく、割と地味な印象しかなかった。

 その「天目指峠」へ向かう道に向かって右折した。上り始めてすぐ左側に喫茶店が見えた。「こんなことろにも喫茶店が・・・きっと窓から見える景色が良いんだろうな・・・?」と思いながら先へ進んだ。

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2018/4/22

4422:ラグジュアリー  

 今日のロングライドは「30周年記念ラン」ということで、チームにとっての「聖地」である「子の権現」へ行く予定であった。

 お世話になっているバイクルプラザが開店してから今年でちょうど30年とのこと。30年前、私は25歳。会計事務所に勤務して忙しい日々を送っていた。ちょうどバブル最盛期で、こなしてもこなしてもいくらでも仕事があった時代である。

 今日は私にとってもちょっとした記念ランであった。それは「初カーボンホイール」&「初チューブラタイヤ」ランであったからである。

 決戦用ホイールとして今年の3月に購入したのはカンパニョーロ ボーラ・ウルトラ(チューブラ用・ダークラベル)である。これに合わせたタイヤはヴィットリア コルサ スピード。

 フロアポンプで空気を入れる際、タイヤに記載されている空気圧の数字を確認した。とても小さなサイズであった。

 「8.14BAR」と書いてあるように思えた。「随分細かな設定だな・・・」と思ったが、もちろんこれは勘違いであった。正しくは「8-14BAR」であった。

 とりあえず空気圧は「8」に合わせた。(バイクルプラザに着いて勘違いであることを教えてもらい「9」まで上げた。)

 いつものように「はやく起きた朝は・・・」を観終わってから朝の7時に自宅を後にした。多摩湖サイクリングロードを走っていった。

 集合場所であるバイクルプラザまでは7kmほどの距離がある。その道を走りながら、まずはチューブラタイヤの乗り味の柔らかさに感心した。

 そしてカーボンホイールのボーラ・ウルトラは、極めてロスなく回る感覚であった。無駄がまったくなくすいすい進む感じは「やはり良い・・・」と思わず目尻が下がった。

 そしてブレーキ音であるが、心配されたブレーキ鳴りは一切なかった。そして文字で表記するのが難しいが「ヒュルルッル〜」といった感じの独特のブレーキ音が耳に心地よかった。

 ヴィットリアのチューブラタイヤの乗り心地、ボーラ・ウルトラの軽くロスのない回転、そしてその独特のブレーキ音・・・その三つが重なるととても「ラグジュアリー」な質感になる。

 この「ラグジュアリー」感は、走っている間ずっと続いた。普段使っているフルクラム レーシングゼロ+コンチネンタル グランプリ4000の乗り味に関して特に不満があるわけではなかったが、ボーラ・ウルトラ+ヴィットリア コルサ スピードの組み合わせを体験すると、「結構違うものだ・・・」と認識を新たにした。

 今日の記念ランの参加者は10名であった。そのロードバイクの内訳はORBEAが4台、Ridleyが2台、Kuotaが2台、そしてCOLNAGOとLOOKが1台づつであった。

 10台のうち私のKuota Khanを含め5台のロードバイクにはカーボンホイールが装着されていたので、あちらこちらからあの独特なブレーキ音が今日は聞こえた。

2018/4/21

4421:試し履き  

 決戦用ホイールとして、カンパニョーロ ボーラウルトラを今年の3月に購入した。チューブラタイヤ用である。

 これを装着して、今年のMt.富士ヒルクライムなどのヒルクライムレースに臨む予定である。普段のロングライドは今までのフルクラム レーシングゼロを使うので、使用頻度は年に数回といったところ。

 ただし、レースで初めて使う「ぶっつけ本番」ではなく、事前に1,2度使ってみたほうがいいとのアドバイスをいただいたので、4月のロングライドで一度使ってみようと思っていた。

 タイヤはチューブラであるので、もしもパンクした場合に備えて、予備のタイヤを購入して持参する必要があった。

 その予備のタイヤとタイヤレバーそしてそれらを格納するサドルバッグをバイクルプラザで購入した。

 これを現在クリンチャータイヤがパンクした場合のチューブなどが入っているサドルバッグと交換すれば、チューブラタイヤを使用する場合の態勢が整う。

 あともう一点、カンパニョーロのボーラ ウルトラを使用する場合には変更しなければならないことがある。それはブレーキシューである。

 カーボンホイール用にはそれ専用のブレーキシューが必要であり、純正品がホイールに付属している。

 その純正品にアルミホイール用のブレーキシューから交換した。ホイールに付属しているブレーキシューは接触面が赤い色であった。

 カーボンホイールはアルミホイールに比べ、熱を持ちやすくブレーキの制動にやや難点があるとのこと。最新のものはかなり改善されてきているようであるが、そのブレーキの効きの違いにも慣れておく必要がある。

 ロングライドでチームメイトが使っているカーボンホイールのブレーキ音は独特である。制動力はやや劣るのかもしれないが、その音はなんだか高性能感が溢れている。

 ただし、それはブレーキシューの位置がきっちりと合っている場合のこと、微妙にずれていると高性能感が溢れるブレーキ音ではなく、耳をつんざくようなブレーキ鳴りが出る場合がある。

 そういうブレーキ鳴りが出てしまう場合には、トーインなどの角度や取り付け位置を調整する必要がある。

 今日はブレーキシューをカーボンホイール用のものに交換してから、レーシングぜロを外してボーラ ウルトラを装着した。

 さらにサドルバッグをチューブラ仕様のものに交換した。これでボーラ ウルトラ初使用の態勢は整った。

 明日のロングライドが初お披露目となる。明日は「激坂四天王」の一角を占める「子の権現」へ行く予定である。

 軽くなったホイールがその実力を発揮してくれるといいのであるが・・・今日は午前中に3時間ほどテニスしたので、脚には少し疲労感がたまった。

 ホイールが軽量化された分とテニスをしたことによる脚の重さがちょうど相殺されて、普段通りのスピードしか出ないかもしれないが、ボーラ ウルトラの初仕事に期待感が高まる。

2018/4/20

4420:21番  

 東京文化会館小ホールでのコンサートを聴き終えてから、幾つかの電車を乗り継いで自宅に帰り着いた。時計の針は11時をほんの少し回っていた。

 体は仕事とコンサートそして長距離の移動によって疲れていたが、私は自宅の1階にあるリスニングルームに入った。

 少しの時間であってもやっておきたいことがあった。それは我が家のオーディオシステムの音を聴くことである。

 東京文化会館の小ホールのちょうど真ん中あたりの席で聴いてきたピアノの音の記憶がまだ脳内に新鮮な状態で残っているうちに、音の検証を済ませておきたかったのである。

 オーディオの音の質感は、実際にコンサートホールで聴いてきた音の質感に似せる必要性は必ずしもあるわけではない。

 そのオーナーが心地よいと思える音の質感や音量に設定すればいいのであって、それはオーナーの自由である。

 しかし、コンサートを聴いてきた直後というのは、「できればコンサートホールで聴いてきたような自然な音の質感であってほしい・・・」という気持ちになっていることが多い。

 システムの電源を入れた。真空管にオレンジ色の灯りがともった。シューベルトのピアノソナタ第17番のCDはなかったので、かわりに第21番のCDの第1楽章を聴いた。

 演奏は内田光子。第21番はピアニスティックな魅力に溢れた、長大な規模を誇る最後のピアノソナタである。

 内田光子が所有するスタインウェイを用いて、ウィーンのムジークフェラインザールで収録さたものである。

 普段のボリューム位置で聴き始めた。「ちょっと音量が大きいか・・・オーディオの場合そうなりがちなんだよな・・・」そう思いながらMarantz Model7のボリュームノブを少し反時計回りに回した。

 コンサートホールでは座る席によって耳に到達する音量は変わる。今日座った小ホールの真ん中あたりでは、音が頭ごなしに覆いかぶさってくるようなことはない。

 かといって、こちらから神経を研ぎ澄まして聴きに向かうほどまでに音量が小さいわけでもない。そういった中庸のバランスになるように音量を調整した。

 「このくらいでいいんだよな・・・ついついオーディオ的な快感を求めていくと音量は大きくなりがち・・・」

 「自然」ということは多少なりとも「退屈」を孕んでいるもの・・・「飽きのこない退屈さ」がもっとも自然なポイントなのかもしれない。

 この曲はシューベルトが彼の早すぎる死の数週間前に作曲したもの。大きなピアノソナタで第1楽章だけで20分ほどかかる。

 この第1楽章はとても繊細で移ろいやすく、純粋な優しさに満ちている。そして、不遇や死に対する恐れや悲しみに満ちているかと思えば、時としてそれらを超越した静かな諦観の心境も垣間見せる。

 その第1楽章を聴き終えて、オーディオシステムの電源を落とした。大変古いイギリス製のスピーカーと、同じく60年ほどの時の経過を体験しているアメリカ製の真空管アンプが奏でる音は「飽きのこない退屈さ」を表現できているようであった。なんだかほっとした。このようにして長い一日は終わろうとしてした。

 コンサートホールへは月に一度ほど足を運ぶ。繰り返されることのない時間に数千円を支払う。その対価は高いと思えるときもあれば、安い時もある。今日は後者であった。

2018/4/19

4419:春のソナタ  

 「海辺のカフカ」の中で村上春樹は、シューベルトのピアノソナタ17番について登場人物の会話として次のように述べさせている。

 「フランツ・シューベルトのピアノ・ソナタを完璧に演奏することは、世界でいちばんむずかしい作業のひとつだからさ。とくにこのニ長調のソナタはそうだ。とびっきりの難物なんだ。・・・ 統一性ということを念頭に置いて聴いてみると、僕の知るかぎり、満足のいく演奏はひとつとしてない。これまで様々な名ピアニストがこの曲に挑んだけれど、そのどれもが目に見える欠陥を持っている。・・・」

 そのピアノソナタ第17番ニ長調D850は、フランツ・シューベルトが1825年に作曲したピアノソナタである。

 4楽章形式の全曲の演奏時間は約40分ほど。長大な作品で、次の18番・19番・20番・21番と連なる大作の一群に入る。

 第1楽章は壮麗な雰囲気で始まる。その後も勢いを削がれることはなく、疾駆していく馬車のように駆け巡る。

 その見せてくれる風景は丘陵地の野山といった感じである。吹く風は決して厳しいものではなく、かといって緩やかなものでもない。

 佐藤卓史の演奏は軽快である。「海辺のカフカ」でのシューベルトのピアノソナタに関する会話は、走行中のマツダ ロードスターの車内でのものであるが、マツダ ロードスターでの走行感覚を思わせるようなスピード感で第1楽章は走っていった。

 第2楽章は長い緩徐楽章。どこかの公園の池でボートにでも乗っている雰囲気である。この第2楽章は「凡長」と評されることもあるが、確かに聴きようによっては「退屈」と捉えられるかもしれない。

 ボートをゆっくりと進ませる櫂がきしむ音や水をはじく音が連綿と続くかのように音楽が進み、体が水の上に浮かんでいる心地よさを体感する楽章である。

 第3楽章は軽快なリズムとメロディーが弾ける。これは社交ダンスのペアが広いダンスフロアを滑るように軽やかに踊る姿が目に浮かぶような音楽である。

 呼吸を合わせ、決して腰高にならずにフロアを滑っていく。数十年もの絶え間ない鍛錬によってもたらされる柔軟で粘り気のある身のこなし。そんな雰囲気を称えて、第3楽章は速くなり、遅くなり、強くなり、弱くなって収束する。

 この長いピアノソナタの最終楽章は拍子抜けするくらい軽いタッチとメロディーで始まる。その様子は4月になって真新しいランドセルを背負い、黄色い帽子をかぶって集団で登校する新一年生の姿のようである。

 「かわいい・・・」思わず心の中でつぶやきが漏れ出る。新一年生はやがて成長していき、2年生、3年生となり、いろいろなことを学んでいく。

 後半に入ると高学年になり、より難しい学科にも取り組み、体も変化していく。そしてついには卒業を迎える。

 なんだか、この第4楽章は小学生の入学から卒業までの6年間を思わせるような楽章であった。これがこの長大なピアノソナタの最終楽章としてふさわしいかどうかはわからないが、心を楽しませてくれるものであった。

 4つの楽章はその見せてくれる風景がまったく違っていた。確かにこのピアノソナタを全体として眺めると、その構成がちぐはぐしている感じがしないでもない。

 しかし、佐藤卓史の演奏は統一した音色をそのいずれの楽章でも提供してくれた。その音色の季節感は「春」である。

 そのせいであろうか、このニ長調のソナタは「春のソナタ」という印象を受けた。ちょうど今の時期にぴったりだと思えた。

 「春」はいろんな色が競うように表出される季節である。そのため、全体として統一感のない色合いとなる。そういった雰囲気を湛えたソナタであった。

2018/4/18

4418:東京文化会館  

 「シューベルトの数あるピアノ・ソナタの中で、僕が長いあいだ個人的にもっとも愛好している作品は、第十七番ニ長調D850である。自慢するのではないが、このソナタはとりわけ長く、けっこう退屈で、形式的にもまとまりがなく、技術的な聴かせどころもほとんど見当たらない。しかしそこには、そのような瑕疵を補ってあまりある、奥深い精神のほとばしりがある」

 そう村上春樹が評しているシューベルトのピアノソナタ17番がメインのプログラムとなっているコンサートを聴いてきた。

 場所は東京文化会館 小ホール。上野駅の公園口改札を出て横断歩道を渡るとすぐについた。開場は6時半であった。6時40分にホールに入っていた。

 ピアノのコンサートの場合、舞台に向かって左側の席から埋まっていく。ピアニストの指使いを視界に納めることが出来るからである。

 ちょうど真ん中の席を確保した。東京文化会館のホールは大ホールも小ホールも数年前にリニューアルされたとのことで、音響的にも改善されたようである。

 ピアノの後方には巨大な反射板が設置されていた。天井はとても高い。このホールは1961年の完成であるので、私よりも2歳上である。

 設計は前川國男。前川は、ル・コルビジェと親交が深く、その影響を強く受けた。彼の設計する建物は確かにル・コルビジェと共通する質感を感じさせた。

 今日の演奏者は佐藤卓史。2007年のシューベルト国際コンクールで第1位となった。2014年からシューベルトのピアノ関連器楽曲全曲演奏プロジェクト「佐藤卓史シューベルトツィクルス」を展開中で、今日の演奏会もその一環である。

 前半は「グラーツのギャロップ」「12のグラーツのワルツ」「ピアノソナタ第10番」の3曲が披露された。

 軽やかで繊細、重々しい重厚感よりも春のような季節感を感じる演奏である。音の響きがのびやかで心地いい。

 小ホールの、前後でも左右でもちょうど真ん中あたりの席で聴いたが、この辺りが音響的にもちょうど良いスウィートスポットだったのかもしれない。

 音が大きすぎず、小さすぎず、響きがすっと体内になじんでくる感覚がした。前半が終わって休憩時間は20分とアナウンスされた。

 トイレを済ませて、喉が渇いたので、ホットコーヒーを飲んだ。後半のプログラムはピアノソナタ第17番である。

2018/4/17

4417:インターナショナル  

 乗り込んでみると、トゥインゴはスペース効率が良くできていて、Aセグメントの車としては、それほどの窮屈感はなかった。

 インテリアのマテリアルはコストの関係から良質なものは使っていないが、上手にデザインされていて、チープな感じは回避されていた。

 外観同様、軽快なフレンチポップという感じで纏められていて、フランスの香りを楽しめるように造形されている。

 エンジンスタートはボタンを押すのではなく、キーを入れて回す古いタイプであった。パワートレインは、90ps&135Nmのピークパワー&トルクを発揮する900cc直列3気筒ターボである。

 コンパクトなエンジンであるが、街中を走る分には不足感を全く感じさせないパワフルさであった。

 3気筒エンジンらしい多少粗めの音と振動は感じる。先日試乗したポロも3気筒エンジンであった。あちらは「3気筒エンジンなんです・・・」と言われないと、それと気付かない程度に抑えられいたが、トゥインゴではしっかりと感じる。

 しかも、それは背後から迫ってくる。体の前は静かで、シートの背面から振動が伝わり、背中が微振動によりマッサージされている気分である。

 RRらしく、後ろから押されている感覚がしっかりとあり、それはとても新鮮な運転感覚であった。

 RRにより小回りが軽自動車以上に効くのも大きな利点である。そのハンドリングであるが、ハンドルを切って曲がるのは楽しいが、曲がり終えてハンドルをニュートラルな位置に戻す際の挙動は落ち着きがなかった。

 足回りも煮詰められたセッティングではなく、ひょこひょこした感じが常に付きまとい、しっとりとした乗り味とは程遠い感じであった。

 残念ながら乗り味に関しては、先日試乗した新型ポロと比べてしまうと2ランク以上の差があるのは事実であった。

 さらにミッションの出来もいまいち感があった。発進時クラッチがつながる瞬間などに感じるシフトショックなどは、今どきのATではあまりないもののはず。

 ボディー剛性は高いと思えた。しかし、全体のバランスはなんだか熟していないような気がした。

 エクステリア・インテリアの「小粋」なまとまりの良さ、RR独特の走行感覚と抜群の最小回転距離、高めの剛性など・・・利点はあるが、欠点も散見される良い意味でも悪い意味でも個性的な車であった。

 「トゥインゴはないな・・・この車にナビやETCなどの必須オプションを入れて250万円を払おうとはとても思えない・・・」

 そう思いながら、次なる目的地である「長江宴」へ向かった。そしてサンフラワーさんと一緒に美味しい中華に舌鼓を打った。

 今日は、イギリスの古いスピーカーを聴き、フランスの小粋なコンパクトカーを楽しみ、美味しい中華を堪能した。インターナショナルな「三毛作OFF会」となった。



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