有川浩『空の中』角川文庫
『塩の街』に続く自衛隊シリーズ。今度は高度2万メートルに人知れず浮かんでいた巨大物体(しかも知能レベルが高い生命体!)との悲劇的な遭遇から話は始まります。この「ありえない設定下のリアリティとラブロマンス」は有川モノならではですな。そして「おじいさん」の使い方がうまいです。以前宮部みゆき作品にも感じた「おじいさん使い」の妙です。
京極夏彦『オジいサン』中央公論社
で、おじいさんです

もう、題名どおり(なんでこのカナ表記かは読めば納得)老人小説。72歳、独身独居の徳一さんの日常が徳一さんの目線で語られます。なんの事件もおこらなければモチロン妖怪もでてきません(笑)。しかしその語りが楽しい楽しい。「あーもうイライラする!」「だからじーさんそれ違うって!」と頭の中でつっこみ笑いながら徳一さんを応援してしまう。
軽妙なようで、ひとことひとこと含蓄のある言葉がたくさんなのは『豆腐小僧』と同じ。語録レベルですよ。
「お年寄り」に対する接し方が変わるんじゃないかというほどの一編。
沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』幻冬舎文庫
嫌な気分になるミステリー略して「イヤミス」というカテゴリがあるのだそうですね。まさにその一品。主人公の十和子は嫌な女だし、彼女の目を通して描かれる年上の同棲相手・陣治もほんとに嫌悪感を抱かせるおっさん。嫌な気持ちになりながら、でもページを繰る手がとめられない、なんなのなんなの?と思っているうちラストの衝撃。これが愛なのね!そうなのね!?
道尾秀介『片眼の猿』新潮文庫
道尾さん、こういうテクニカルでコミカルなライトハードボイルドも書くんだ!というのが第一印象。でも実はテーマは重い。なんか「だまされてるな」と思いながらミスリーディングさせられているのを楽しみつつ、最後の仕掛けを味わい、深いテーマに背筋を正してくださいww
池井戸潤『最終退行』小学館文庫
池井戸さんの長編のカタルシス、いいですねぇ〜。今回も銀行モノですが、バブル崩壊後の貸し渋り→貸し剥がしからマッカーサーのお宝(M資金)が出てきたり不正のスケールも大きいですよ。文句なしに面白い。
しかし、銀行ってどこもこんな体質なんですかねえ。銀行員の方が読んで「あるある」ってなってたらやだな。「これはデフォルメしすぎ〜」と思って欲しいなぁ
恒川光太郎『草祭』新潮文庫
イヤミスも嫌いじゃないですが、やっぱりこういう幻想的な物語は安らぎます

「美奥」というちょっと不思議な町を舞台にした短編集。恒川ワールド全開のノスタルジックホラーです。ひとつひとつの話の背後にあるのはいじめだったり無理心中だったり、テーマは重いのですが、それを重すぎず甘すぎず微妙なさじ加減で美しい掌編に仕上げています。佳き哉。
貫井徳郎『乱反射』朝日文庫
風が吹けば桶屋が儲かる的な。。。2歳の子どもの事故死は、実は何人もの一見無関係な人々による殺意のない殺人だ、と語り始められます。視点がどんどんかわる群像劇的な展開でやめられないとまらない。
その一人ひとりの行為や思考回路にいちいち「あるある」と思いつつも、とても嫌な感じの「あるある」感

こういうちょとしたインモラル、ルール違反、虚栄心、ちょっとした罪悪感は誰にでもあってもっとも突っ込んで欲しくないところでは。そのへんのすくい取り方と連鎖のさせ方が巧妙。かつ、無責任・開き直り・シラを切る・自責…といったそれぞれの感情の見せ方がまた巧い。テクニカルな面白さだけでなくうーむと唸ってしまう作品。