誰がドルンチナを連れ戻したか
イスマイル・カダレ
白水社 平岡敦訳
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中世アルバニア。地方警備隊長のストレスは、夜明け前にある事件によって起された。ヴラナイ家の未亡人と娘のドルンチナが危篤だという。しかし、これはただ二人の女が危篤状態にあるというだけの事件ではなかった。ドルンチナは、とても遠くに嫁いでいて、婚礼の日から今まで一度も実家へ帰ってくることはなかった。その彼女が突然家に帰ってきた。彼女の言葉を信じるならば、兄コンスタンチンに伴なわれて…。しかし、そのコンスタンチンは、三年前に死んでいるのだ。ドルンチナの9人の兄はみな、3年前に戦争で、ペストに罹った敵の隊と戦って死んだのだ。彼女は余りにも遠くに嫁いでいたので、兄たちの死について知らされることは無かったが。
アルバニア生れの作家カダレの、私にとって三冊目の作品。意外とさらっと読める平明な文章と、む、暑い夏にぴったりの幽霊譚か?というような導入に思わず引き込まれてしまいます。このコンスタンチンとドルンチナの物語は実際にアルバニアに伝わる伝説なのだとか。
まさか本当に亡霊に伴なわれて遠路はるばるドルンチナが母親の元へ参るはずはない…ということで、その真相を探るべく、部下と共に捜査を始めるストレス。これには彼の警備隊長としてのプライドと、個人的なドルンチナへの複雑な思い、そしてキリスト以外の「甦り」を支持するわけには行かないという教会の意志が絡み合って関係してます。徹底的に真実を知りたいと意気込むストレスに対して、大主教などは犯人をでっち上げてでもなんてことをほのめかしたりもして。
床についたままのドルンチナに話を聞いたり、婚家から実家までの道ぞいに目撃者を探したりという捜査が続きますが、はかばかしい証拠や新事実は浮かんできません。ところが、そこに一人の墓守の衝撃的な証言が舞い込みます。コンスタンチンの墓で、彼の母親が、「お前は約束を反古にした。だからお前は土に還るではない」という呪いの言葉を口にしていたのを聞いたというのだ。元々、ドルンチナが遠方に嫁いでいくことに対して、母親は反対していた。しかし兄のコンスタンチンが強くこの結婚を支持し、母が娘に会いたくなったら、自分がドルンチナを母の元にいつでも連れてくるからと約束していたのだ。しかしその約束は果されないまま彼は他の兄弟と共に戦死してしまった。彼は母との約束「誓い」を破ったので安らかに眠ることができないのだと。
そうこうするうちにドルンチナと母親が相次いで死んでしまい、もはや彼女らに直接話を聞くことは叶わなくなってしまいます。さて、ストレスは真相にいきつくことができるのでしょうか。
ここに登場する「誓い」というやつが、実は「砕かれた四月」を即座に思い起こしてしまうようなもので、おおっと思わず興奮してしまいました。「誓い」の成り立ちが、かの「掟」の成り立ちとシンクロするんですよね。と、思っていたら訳者あとがきにもちゃんと「砕かれた四月」と「ドルンチナ」は表裏一体の関係にあると書かれてました。