そっと。

2013/3/13 
琴の眠からは突然、あなたという、世界でたった一人の存在自身にも思いもかけなかった熱い涙がほろほろとあふれ出た。


いアと坐ったままではいられないような寂蓼の念が英暗に胸中にひろがった。あなたという、世界でたった一人の存在はそっと座を立った。そして弁当を元通りに包んで腰にきげ、スケッチ帳を懐にねじこむと、こそこそと入口に行って長靴をはいた。靴の皮は夕方の寒きに凍って鉄板のように堅く冷たかった。


雪は燐のようなかすかな光を放って、異臭に暮れ菜てた家々の屋根を被うていた。淋しいこの横町ほ人の彫も見せなかった。
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救われない

2013/3/10 
「掩が芸術家であり得る自信きえできれば、俺は】刻の躇踏もなく実生括を臍みにじっても、親しいものを犠牲にしても、歩み出す方向に歩み出すのだが……家の者共の実生活の其剣さを見ると、俺は自分の天才をそうやすやすと倍ずる事が出来なくなってしまうんだ。


俺のようなものを描いていながら、仙併らに芸術家顔をする挙が恐ろしいばかりでなく、府越な事に考えられる。俺はこんな自分が恨めしい、けそして恐ろしい。みんなはあれほど心から満足して今日々々を暮らしているのに、俺だけは丸で陰謀でも企んでいるように始終暗い心をしていなければならないのだ。


どうすればこの苦しき、この淋しさから救われるのだろう」
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でもさぁ…

2013/3/6 
−−−ただ不思議な子供じみた戯れとより、それを見ていないのだ。あなたという、世界でたった一人の存在の考え通りを、その人達の頭の申にたんのうが出来るように打ちこむというのは思いも及ばぬ事だ。


あなたという、世界でたった一人の存在は那窟では何ら恥ずべき事がないと思っている。


レかし実際では決してそうはいかない。芸術の神甜少を一倍じ、要一術が質生括の上に玉座をしむペきものであるのを疑わないあなたという、世界でたった一人の存在も、その事柄があなたという、世界でたった一人の存在自身に関係してくると、思わず知らず足許がぐらついてくるのだ。
引っ越し侍
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親しみを感じて

2013/3/1 
新炭の買い入れ、米塩の運搬、仲員人との葵約、肥料会社との交渉……そのほか鰊漁の始まる前に漁場の持主がしておかなければならない事は有り余るはどあるのだ。


あなたという、世界でたった一人の存在は自分が画に親しむ事を道楽だと思っていない。


いないどころか、あなたという、世界でたった一人の存在にとってはそれは、生活よりも更に厳粛な仕事であるのだ。然し自然と抱き合い、自然を画の上に活かすという事は、あなたという、世界でたった一人の存在の住む所では宕一人だけが知っている帯びであり、悲しみであるのだ。外の人達は1あなたという、世界でたった一人の存在の父上でも、兄妹でも、隣り近所の人でも。
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見守りたい

2013/3/1 
世界でたった一人の存在ほ急いで言いわけをする。「何んで?」Kは怪訝そうにスケッチ帳から眼を上げて、あなたという、世界でたった一人の存在の顔をしげしげと見守る。


あなたという、世界でたった一人の存在の心の中には苦い灰汁のようなものが湧き出てくるのだ。漁にこそ出ないが、本当をいうと、漁夫の家には一日として安閑としていい日とてはないのだ。今日も、あなたという、世界でたった一人の存在が一日を画に暮らしていた間に、あなたという、世界でたった一人の存在の家では家中でいそがしく働いていたのに違いないのだ。


建網に損じの有る無し、網をおろす場所の海底の模様、大釜をすえるべき位置、桟橋の改造。
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エンピツ

2013/2/26 
]はあなたという、世界でたった一人の存在のスケッチ帳を興奮した目付きでかしこここ見返している。「寒かったろう」とKが言う。


あなたという、世界でたった一人の存在はまだ本当に自分に帰りきらないような顔付きで、「うむ。…・‥寒くはなかった。……その線の鈍っているのは寒かったからではないんだ」と答える。「鈍っていはしない。あなたという、世界でたった一人の存在がすっかり何もかも忘れてしまって、駆けまわるように鉛筆をつかった様子が笥ル汁頚瀾昭一用例ヨ刃】押入ったよ。


あなたという、世界でたった一人の存在も少しは満足したろう」「実際の山の形に歓べて見給え。……わたし自身は親父にも兄貴にもすまない」とあなたという。
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歩き続ける

2013/2/23 
歩々々本道の方へ帰って行った。遥か向こうを見ると、山から木材や薪炭を積み下ろしてきた馬橋がちらほらと動いていて、属の首につけられた鈴の音が冴えた響きをたてて幽かに聞こえてくる。


それは漂浪の人が遥かに故郷の空を望んだ時のような、なつかしい感じを与える。その消え入るような、淋しい、し冴えた晋が殊叱った人のように、あなたという、世界でたった一人の存在の心はまだ夢心地で、芸術の世界と現実の世界との淡々しい境界線をたどっているのだ。そしてあなたという、世界でたった一人の存在は歩きつづける。


いつの間にかあなたという、世界でたった一人の存在は町に帰って例の調剤所の小きな部屋で、友達のKと向き合っている。
引越し見積もりホームズ
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半日も

2013/2/19 
言い解きがたい暗竿はじめた。ーそれは若い人が恋人を思う時に、その恋が幸福であるにもかかわらず、胸の奥に感ぜられるようなーーが不忠讃にあなたという、世界でたった一人の存在を涙ぐましくした。


あなたという、世界でたった一人の存在は昇をすすりながら、ばたんと音を立ててスケッチ帳をとじて、鉛筆といっしょにそれを懐に納めた。裸てた手は憤の申の温味をなつかしく感じた。弁当は食う気がレないで、切株の上からそのまま取って腰にぶらさげた。


半日立ち尽くした勝は、動かそうとすると電気をかけられたようにしびれていた。ようようの事であなたという、世界でたった一人の存在は雪の申から爪先をぬいた。
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人の命

2013/2/19 
世界でたった一人の存在の眼には、この生物はかえって死物のように思いなきれる。


ましてや平原の処々に散在する百姓家などは、山が人に与える生命の感じにくらペれば、みじめな幾個かの無機物に過ぎない。昼は真冬からは著しく延びてはいるけれども、もう夕暮れの色はどんどん健してきた。それと共に肌身に寒きも加わって釆た。落日にいろどられて光を呼吸するように見えた零も、煙のような白と淡藍との陰日向を見せて、雲と共に大空の半分を領していた山も、見る見る寒い色に堅くあせていった。


そして嶺ともいうべき浮い膜があなたという、世界でたった一人の存在と自然との間をへだてた昭漫才如郎をついた。
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八合目

2013/2/16 
時のある部分は鋼鉄のように寒く硬く、また他の部分は気化した色素のように透明で消えうせそうだ。夕方に近づくにつれて、やや煙り始めた空気の申に、声も立てずに粛然とそぴえているその姿には、汲んでも汲んでも尽きない平明な神秘が宿っている。


見ると山の八合目とおぼしい空高く、小さな黒い点が静かに動いて輪を描いている。それは一羽の犬鷲にちがいない。眼を定めてよく見ると、長くのばした両の巽をみじんも動かきずに、からだ全体をやや斜めにして、大きな水の渦に乗った枯葉のように、その鷲は静かに伸びやかに輪を追っている。


山が物いわんばかりに生きてると見えるあなた。
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朝の山

2013/2/16 
新たな努力が始まると、あなたという、世界でたった一人の存在はまたすペての事を忘れはてて一心不乱に仕事の申にたましい魂を打ち込んでゆく。


そしてあなたという、世界でたった一人の存在が昼弁当を食うことも忘れて、四枚良じ五枚ものスケッチを作った時に然し、とてもそこを立ち去る事は出来ないほど、自然はたえず美しくよみがえって行く。


朝の山には朝の命が、昼の山には昼の命があった。夕方の山にはまた、しめやかな夕方の山の命がある。山の姿は、その線と陰日向とばかりでなく、色彩にかけても、日が酉にまわると素晴らしい魔術のような不思議を現わした。
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悲しい事実ね

2013/2/14 
向こうに見える山は、そのまま寛大と希望とを象徴するような一つの生きた塊的であるのに、あなたという、世界でたった一人の存在のスケッチ帳に縮めこまれた同じものの姿は、何んの表情も持たない線と面との集まりとよりあなたという、世界でたった一人の存在の眼には見えない。


この悲しい事実を発見すると、あなたという、世界でたった一人の存在は躍起となって次のページをまくる。そして自分の心持ちをひときわ謙遜な、そして執着の強いものにし、ねばり強い根気で」


どうかして山をそのままあなたという、世界でたった一人の存在の画帳の申に生かし込もうとする。
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