本日…というより、既に昨日の事となったが、私の学校である事件が起きた。
時間にすると21時を回って少し経った頃だろうか。
ゼミ前日ということや、締め切りの近い論文や共同実験を抱えているということもあり、研究室のほとんどの人間が徹夜覚悟でそれぞれの作業をしていたときの事だ。
私も実験データの解析とプレゼンの資料を作るためにPCに向かっていた、丁度そのとき
響く、女性の甲高い叫び声。
助けて!
…そう聞こえた。
しかし、周りの人たちは無言で作業を続けている。
聞き間違えか?
私は周囲におそるおそる尋ねた。
「え、いま、外から助けてってこえ…」
助けて!
私の声が終わらないうちに、先程より大きく、はっきりとした叫び声がした。
思わず、体が強張る。
他の人たちにも聞こえたらしく、「え?」「今外で…」など口々に言い交わしあっている。
そして、窓側の後輩が外の様子を伺った。
それにつられる様に、他の人間もいっせいに窓に向かう。
私の学校は、学部ごとにキャンパスが別れており、私の所属する工学部は人家のない山の上にある。
そのため、外は薄暗くい上、樹木などの死角が多く、何が起こったのかまったく見えない。
それ以前に、全然別のところから声が聞こえてきたのかもしれない。
もどかしくなった私は、スリッパのまま研究室を飛び出した。
1個下の後輩が後に続く。
怪我や事故、病気など、命に関わる可能性もあるし、ひょっとすると事件性のある「なにか」が起こっている場合も考えられる。
そういうときに、救急車や警察を呼ぶくらいは出来るだろう。
私はそう思いながら外に飛び出した。
いや、正直に言うと野次馬根性の方が大きかったかもしれない。
外は静まり返っており、人っ子一人いない。
悲鳴を上げた女性はおろか、他の野次馬すら見当たらない。
「誰もいないっすねぇ」
一緒に外に出た後輩が、残念そうな、嬉しそうな、よくわからない表情を浮かべながら呟いた。
裏の建物かもしれないから。
私はそう言い、その後輩と暗いキャンパスを徘徊する。
だが、それでもそれらしい人は見つからなかった。
正確に言うと、それらしくもない人とすら遭遇しなかった。
外には誰もおらず、静寂だけが漂っている。
野次馬すらいないというのが、私には少し薄情な気がした。
悪戯だったのかもしれないと言い合いながら研究室に戻った私たちに、部屋に残っていた連中が一斉に質問を浴びせかけた。
何もない、誰もいなかった。
そう告げると、皆残念そうな顔をして私たちから離れていった。
そんな中、窓側に座っていた後輩がぽつりと呟いた。
「(私の本名)さんたち出て行く前に、変な車が走り去って行ったんですよ」
その車が、何か関係しているのだろうか?
もっとも、私にはそれを確かめる術はない。
何もなかったと言うことで、皆それぞれ作業に戻る。
私も気にはなっていたものの、データ解析の続きを始めた。
悪戯の割には、悲鳴がやけに新に迫ったものだったからだ。
今となっては悪戯だったと思うしかない。
私は耳に残った悲鳴を振り払うように、キーボードを叩いた。
だが、このあと事態は急変する。
(長くなったんで一旦区切ります)

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