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泰望  遙か3

※社長泰衝パロ



■心月


 ついていないときというのは何をやっても上手くいかない。それが例え些細な事であっても癇に障るものだ。

 いつもなら触れるだけでロックが解除される指紋認証式の車のキーがいくら触っても何をしても動かなかった。仕方なく鍵を使ってドアを開け、心なしか乱暴に閉める。一日中絞めっ放しのネクタイを緩めると、途端部下の前では到底つかない重い溜息がもれた。

 半年を掛けて、グループ企業総出で取り組んできたある事業があった。今年の社運をかけたものであったので事は発表まで公にはせず、他企業に露見する危険を避けての計画であった。しかし、事業協力を仰いでいた外部会社が秘密裏にライバル企業に買収され、そこから事業計画が筒抜けになっていた事が数日前に発覚したのだ。

 そこから多方面に働きかけ、何とかライバル企業の押さえ込みには成功した。しかし外部に漏れた計画をそのまま進めるわけにもいかず、一部が練り直しとなった。

 事が事であった為全て企業のトップである泰衝自らが動いていた。その為に自宅のマンションにも帰れず、会社に寝泊り、徹夜の日々も続いた。本日やっと目処がついたので、泰衝の様子を見かねた部下が一度帰宅を勧めてきたのだ。

 働き詰めで体調を崩すような柔な身体も精神もしていないが、さすがに事が事であった為に疲労は苛立ちを生んだ。よくよく思えばいくらか部下にきつく当たったかもしれない。まあそれはいつもの事か、と泰衝は苦笑を唇の端に刻み、キーを回す。高い静音機能を誇るこの車種は、少し車体が震えただけでエンジンが掛かる。ステアリングを軽く握り、サイドブレーキを上げてアクセルを踏むと、滑らかに動き出す。黒塗りの車体は、内装も黒で統一しているので夜へ身を投じれば宵闇に溶け込む。

 日付も変わろうとしている時間帯であるが都会の喧騒は黙るということ知らない。車道には車がひっきりなしに走り、歩道には人が溢れ、よく磨かれた車体やガラスはネオンの灯りを弾く。幸い混雑する時間ではないので車はスムーズな流れの中を走っているが、元来騒がしさを好まない泰衝には夜の明るさは煩わしいばかりである。

 いや、と泰衝はふと思い直した。夜に光を放つ存在としてただ一つ、好むものがあった。赤信号にブレーキを踏む。窓から覗く空を眺めたが、地上のネオンに気圧された夜空はまるでタールを流し込んだようにのっぺりとしている。もしかしたら今夜は新月なのだろうか。

 まあ、俺の求めるものは空にはないがな。

 心中で漏れた呟きに、自身が苦笑した。どうやら本当に疲れているらしい。

 そういえば、と泰衝は思考の流れである事を思い出した。腕時計を確認する。まだ時間はあるか。

 どうやら長い信号に引っ掛かったらしい。しばらく動く様子のない車の列に知らず肩を落としたら、スーツジャケットのポケットに入れていた携帯が俄かに振動した。こんな時間に、もしかして社からの呼び戻しかと画面を開いてみると、そこにはたった今心の中に思い描いていた人物の名前が表示されていた。

 「――もしもし」

 努めて冷静に、いつもの調子で電話に出る。『あ、あの…もしもし。泰衝さん?』いつもより控えめな声に思わず笑みが零れてしまった。

 「珍しい事もあるものだな。貴女がそのように殊勝な態度だと、明日の天気が心配になる」
 『もうっ、泰衝さんはいっつも嫌味ですね。そんなんじゃ女の子にモテませんよ』
 「生憎ともう間に合っているのでな。これ以上他人から好かれようとは思わん」
 『…そんな言い方、ずるい』

 一瞬だけ空いた間に、相手が顔を仄かに赤くしている様が脳裏に浮かぶ。く、と喉の奥で笑うとそれが向こうにも聞こえたのか『あ、今のからかったんでしょ』と拗ねた調子の声が返ってくる。はぐらかすとむくれた呻き声が受話口からもれる。

 『…でも、お仕事忙しかったんでしょう? もう大丈夫なんですか?』
 「ああ、とりあえずは…といった感じだが。部下から退社を促されるくらいにはなった」
 『その言い方だともう少し忙しいってことですよね。身体、大丈夫ですか? 泰衝さんすぐに無理するから、心配です』
 「貴女に心配されるようでは俺もまだまだだな。貴女に気取られないようこれから善処しよう」
 『善処のしどころが違います!』

 むきになった声は、しかしいつもの調子に戻り泰衝を和ませる。決して本人に言ったことはないが、彼女が自分の言動で一喜一憂する様は見ていても聞いていても飽きない。

 『でもそっか…まだ忙しいんですね…。今どこですか? マンション?』
 「いや、まだ車の中だ」
 『え、あ、運転中だったんですか?! ごめんなさい、すぐ切りますねっ』
 「残念な事に現在信号で停止中だ。まだ貴女の戯言に付き合える時間はあるが?」
 『残念って何ですか残念って』
 「言葉の通りに受け取ってもらっても構わない」
 『もう、泰衝さんの意地悪っ!』
 
 本当は私と話してたいくせに、と相手にとっては強がりの反論に泰衝は応えなかった。これもまた残念な事に図星だったので。だが悟られて図に乗られては困るので「何とでもと言えばいい」と余裕を含ませて返した。

 ちらり、と腕時計を見る。ああ、あと少しか。

 『でもいつ動き出すか分からないからもう切りますね。また落ち着いた頃に連絡します』
 「ああ、切るのはもう少し待たれよ」
 『え?』
 「ときに、貴女は今どこに?」
 『私ですか? 自宅のアパートにいますけど』
 「これからお暇か?」
 『もう夜中ですよ? あとは寝るだけですけど…』
 「それは残念だ。貴女さえよければ夜のドライブでもどうかと思ったんだが、そうかもう眠られるのか。貴女の夢路を邪魔してはいけないな」
 『え、えええええ?! ちょ、ちょっと待って下さい! ドライブ、行きたいです! パジャマだけどすぐ着替えます! 泰衝さんに会いたいです!』

 最後の一言に自分の表情が綻ぶのが分かった。会いたかったのは己の方だと気付かされる。

 自宅まで迎えに行く旨とおおまかな到着時間を話した後、『じゃあ待ってますね!』と向こうが電話を切ろうとした。

 時計の短針、長針、秒針が12で重なる。

 「ああ、そういえば」それは、何気なさを装った。

 「誕生日、おめでとう」
 『……へ?』

 「それでは後ほど」相手の反応を待たず通話を切った。ちょうど赤信号が青に変わったのでステアリングを握り直し、アクセルを踏む。

 最後に聞こえた声は随分と素っ頓狂だった。きっと自分が誕生日を忘れていると思い込んでいたのだろう。実際先ほどまでふと忘れてはいたのだが、この忙殺された数日、その事だけは頭の隅に置いておいたのでそれを免罪符とする。

 さて、どんな顔をして自分を迎えるのか。今頃色々な意味で慌てているだろう彼女を想像し、そしてこの後の事を予想すると心中が躍った。車の外、行き交う人々、眠らない街、明るすぎる夜、暗い空。鬱屈した風景にしか見えなかったそれらが、途端に煩わしくなくなるのだから我ながら現金だとも思う。

 笑顔であればいい、と泰衝は思った。全くついていなかった昨日という日に別れを告げ、迎えた今日という特別な日に一番に会う顔が、耀く満月であったなら。

 今は心の中にいる月に直に逢う為、泰衝はアクセルを強く踏んだ。








〜終〜








------------------
運転する泰衝、というリクエストを頂いていたので書いてみた泰衝。
一応泰衝が乗っている車はオーソドックス(?)にメルセデスベンツ、の自己設定。もっと捻った外車でも良かったが捻る時間がなかったので『高級感のある黒い車』って想像したらベンツになった次第です(爆)
しっかし久しぶりに泰衝書いたが、偉そうだしツンデレだし何もうこいつ大好き!(えっ) そして気付いただろうか、今回の話、泰衝の相手、まあ望美ちゃん設定ですが、でも一度も『望美』って表記してないんだぜ! 夢としても読めるんだぜ!
というのも今回のこの話、毎年恒例ですが、我が許婚殿への誕生日プレゼントの一環だからです。お誕生日おめでとう許婚殿!


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将望※『女神』シリーズ  遙か3



女神シリーズ
■女神の衝撃


 ダンダンダン、とある意味規則正しい、しかしこの上なく物騒な銃声が間髪なく望美と将臣を襲う。

 「将臣くん! 絶対に何かを背にしててね!」
 「わーってるって!」
 
 望美は、ダンボール箱の山々の谷間を挟んで向かい側の影に身を潜めた将臣に叫ぶ。そうしながら銃声の合間を縫って愛銃で応戦する。
 
 サングラスを掛けた男は、彼の醸し出す穏やかな雰囲気とは裏腹に肩に担いでいたライフル銃を隙のない動作で構え、そして発砲してきた。望美と将臣は反射的に山と積まれた箱の影に身を隠す。銃弾は望美の傍らにあったダンボール箱を破裂させた。

 望美は周囲にごまんと積まれているベレッタを軸に連発し、合間にM500型の威力ある弾を挟んで二丁扱いで発砲する。相手が使っているのはライフル銃だ。普段は猟銃として使われている為連発には向いていない。だが相手は一見して戦闘のプロと分かる強者だ、短所を分かっていて尚ライフル銃を使っているに違いない。その証拠が先ほどから止むことのない銃声である。
 そしてその長所は動物を一発で仕留めてしまう銃弾の鋭さだ。一度当たったら致命傷を負いかねない。

 「おー、怖ぇ怖ぇ」将臣は言葉とは裏腹にどこか楽しげに呟いた。ヒュン、と顔のすぐ傍を通り過ぎていく銃弾をニヤリと不敵に笑って見つめる。背にしている箱の封を無造作に開けて中の銃を取り出し、安全装置を外す。

 そして望美の放つ銃弾を追うようにサングラスの男に向かって発砲した。

 パンパンパン、と将臣の放った軽快な銃声は、サングラスの男に命中こそしなかったものの男の気を反らすには十分だった。その間に望美は男に向かってM500型を発砲。男に当たった手応えはなかったが「く、」と短い歯噛みの声の後、ライフル銃の重い銃声が一瞬止んだ。

 その一瞬を『女神』が見逃すはずがない。

 「援護するぜ!」
 「お願いっ」

 将臣の力強い声に背中を押され、また守られながら、望美は箱の影から躍り出た。

 サングラスの男はその腕からライフル銃を落としていた。どうやら望美の弾は男ではなくライフル銃に当たっていたらしい。男は取り落とした銃を拾おうと素早く身を屈めたが、望美の駆走は一瞬だ。

 男の手が一瞬銃に掛かったがパン、と銃弾の弾く音と共に男の手の甲に赤い筋が浮ぶ。サングラス越しでも分かるほど顔を歪めた男は手の甲を押さえる――将臣の援護射撃の一弾が男の手を掠めたのだ。

 望美の爪先がライフル銃を蹴り上げる。銃はくるくると回転しながらだだっ広い部屋の隅にまで滑っていく。

 男がその軌跡を目で追ったとき、男のこめかみにはM500型の無骨な銃口が突きつけられていた。

 「そこまでよ。大人しくして」
 「あはは、やっぱり君は強いなぁ」

 男は改めて床に膝をつき、ゆっくりと両腕を上げホールドアップのかたちをとる。サングラス越しに望美を見上げてくるが、サングラスの向こうの眦はどことなく情けなさそうに下がっていた。

 その表情に望美は一瞬毒気を抜かれそうになるが、すぐに気を引き締めちらりと視線を部屋の隅に追いやったライフル銃に向ける。

 「何あのライフル銃。驚くほど高性能だね。単発銃であれだけ連発出来るなんて信じられない」
 「お褒めに預かり光栄だよ。オレが手を加えたんだ〜」
 「…銃の改造は法律で禁止されているはずだけど」
 「オレの唯一の趣味なんだよ〜。許して」

 にっこりと微笑う男に望美は顔を顰める。

 何故こんなに悠長に構えていられるのだろう。何か罠でも仕掛けられているのだろうか、しかし先ほどから周囲の様子や雰囲気、気配を五感と言わず六感を使って確認している望美だが、何も引っかかってはこない。

 よほど肝の据わった人柄なのか、場慣れしているのか、それともただ単に諦めているだけなのか。どうにも読めない男だと望美はそのサングラス向こうの目を胡乱げに見返す。

 「貴方が趣味で何をしてようと私達は興味がないの。私達が興味があるのは…知りたいのはたった一つだけ。どうして貴方達『星野』が『有川』を狙うか、よ」
 「どうして、かぁ。それはオレの口からは言えないな」
 「こんな状況なのに?」

 望美は男のこめかみに突き当てたM500型の撃鉄をガチリと上げる。わざと響くように上げたので、その音は部屋の隅にまで行き渡った。

 しかし男は怯まない。ただにこにこと微笑っている。

 「君は本当に強いね、望美ちゃん。話に聞いていた通りだ」
 「私のことも調べ上げているってこと?」
 「うーん、別に君のことは調べたわけじゃないみたいだよ」
 「どういう意味だ?」
 
 問い返したのは望美ではなかった。いつの間にか将臣が箱山の影から出てきて望美の隣りに立ち、望美と共に男を見下ろしていた。

 「ちょ、将臣くん! まだ出てきちゃ駄目だよ!」
 「もう危険はないだろ? 辺りに人の気配もねぇみたいだし」
 「それはそうだけど…でも将臣くんが狙われてることに変わりはないんだから」
 「あはは、望美ちゃんの言う通りだよ有川将臣くん。…油断は大敵だ」

 す、と男の気配が冷えたものに変わったのを望美は感じ取った。

 ざわり、と俄かに肌が粟立つ。
 純粋な殺気が全身にぶつけられる。

 ヤられる、と思った望美は咄嗟にトリガーを引こうと男を見やった。
 しかし、男は溢れ出す殺気は裏腹に腕は変わらずにホールドアップ、手には獲物一つさえ握っていない。

 その矛盾に望美が一瞬躊躇った、その瞬間。

 ――バン!

 一発の銃声が広い部屋を震わせた。

 望美のM500型ではない。かと言って目の前の男はやはり空手であり、彼の唯一の武器であるライフル銃は相変わらず部屋の隅に転がっている。

 では銃声は一体どこから。

 ――ぐらり、と隣りの長身が崩れた。

 望美が振り返ると同時に、将臣の身体が前へと傾ぎ、床へと倒れ伏す。

 「将臣くん?!」

 望美は驚きと動揺に目を見張る。何故将臣が倒れたのか理解出来ないまま、咄嗟に将臣の傍らに膝をつく。

 ぺちゃり、と床についた手が暖かい感触を捉えた。その感触に覚えがあった望美は、段々沸き起こる身体の震えを止められないまま、掌を返す。

 その手は、真っ赤に染まっていた。

 「あ、あ…」

 うつ伏せに倒れた将臣の身体の下からじわりと赤い液体が滲み出て床を塗らしていた。それが血だと理解するまで望美は数瞬時間を要した。

 ――先ほどの銃声は将臣を撃ったのだ。

 でも一体誰が! 望美はすぐさま理性を取り戻し、しかしこみ上げてくる怒りのまま握った銃を銃声の轟いた方向へと向ける。

 そうしながら視線を転じた先――部屋の入り口に、一人の男が立っていた。

 仕立ての良いダークグレーのスーツを身にまとった、望美とそう大して歳の変わらない、ともすれば望美よりも若い青年だった。掛けている眼鏡のレンズの向こうでは、理知的な輝きを宿す瞳が穏やかに細められている。
 しかしその手に握られているのは銃口から一筋の硝煙を立ち上らせている銃、さきほどまで望美が乱射していたベレッタと同じ型のものだった。

 「貴方が…!」

 望美は銃口は外さないまま立ち上がり青年に向き直る。
 しかし青年は逆に小さく微笑みながら銃を下ろした。

 「――こんなかたちで再会するなんて、思いませんでした」

 青年は、その瞳と同じ穏やかな声と口調で望美に喋りかけた。しかし望美は殺気とも怒気ともつかぬ気配をそのまま青年にぶつける。

 「貴方は誰?! どうして、どうして将臣くんを…!」
 「それは一番貴女が知っているはずですよ。俺達はいつも有川将臣の命を狙っていたんですから」

 青年は一歩前に踏み出す。上品な色合いの革靴がカツリ、カツリと床を響かせる。

 望美はM500型を構え直しながら、ある直感を確信を持って青年を睨みつけた。

 「もしかして……貴方が『星野』の…?」
 「ええそうです。俺が星野のトップ――有川将臣の命を狙っていた張本人ですよ」

 青年はニコリと、まるで親しげに挨拶を交わした後のごとく微笑った。

 望美は今すぐトリガーを引いてしまいたい衝動を必死に堪えて青年を見返した。

 裏の組織を束ねている人間としては驚くほど若い。しかしその雰囲気には全く隙が無い。戦闘慣れをしているようには見えないが、しかしそれなりの修羅場を潜ってきている『匂い』を感じる。上品な顔立ちに似合う穏やかな微笑は、きっと場が場なら見惚れてしまうほど。しかしその表情の下には不敵さを隠し湛えている。滲み出る強かさは、しかし上に立つ人間の器量そのものだ。

 望美は困惑に眉を潜めた。この人、誰かに似ている…?

 青年は銃を向けられているにも関わらず、自分の得物を懐に仕舞う。そのあまりの大胆さに望美は呆気にとられそうになった。

 そうして、はた、と思い返す。今の感じって、いつも…――

 「まずは『久しぶりです』と挨拶をさせてもらえませんか、『望美ちゃん』。ああ、今は『先輩』と呼んだ方がいいのかな。本当ならそういう関係になっていてもおかしくないんですから」

 青年から紡がれた自分の名前に望美はたじろく。しかし銃口はきっちりと青年の眉間に照準を絞ったまま、青年を見つめる。

 「『久しぶり』ってどういうこと? そういう関係って、何?」
 「もしあんなことがなければ、俺と貴方は同じ学校に通っていたはずですから。尤も俺が貴方より一つ年下なので、貴女は俺の先輩になっていたはずです」
 「どういう…こと?」
 「分かりませんか? まあ会うのは十数年ぶりだから顔を合わせたところで分からないのは仕方ないこともしれませんが」

 そう言って青年は懐かしそうに――しかし少し寂しそうに微笑んだ。

 「俺ですよ。有川…譲です」
 
 望美は絶句した。

 「ゆずる、くん…?」

 ――望美ちゃん。ねえ待って望美ちゃん。

 望美の脳裏にフラッシュバックしたのは、幼い日々の記憶。何の衒いもなく幸せだったあの日々。

 その少年は、いつも望美と、そして将臣の後をついてきていた。望美はその少年にいつも笑顔で手を差し伸べていた。

 そして少年はいつも、その手を笑顔で握り返してくれたのだ。

 ――望美ちゃん。お兄ちゃん。今日はどこへ遊びに行くの?

 「お久しぶりです。…望美ちゃん」

 幼い少年の面影が、目の前の青年に被り、同調していく。

 似ている。似ているはずなのだ――将臣と。

 何故なら、青年――有川譲は、十数年前のあの日に生き別れた、将臣の弟なのだから。








…To be continued…









------------------
やっと黒幕登場ー! ここまでが長かったー!
そんなんで、黒幕『星野』――譲の登場です。まあ黒幕が誰かとは大体お気づきの方が多かったと思いますが(笑)
この譲の登場をどのタイミングでさせるか散々悩んで今まで執筆が遅れてました。あと銃撃戦を書くのが面倒だった(をいコラ)。
さあここまでくればあとは書くだけだよー! てか撃たれた将臣が放っておかれてるね!(爆)



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九望+弁慶  遙か3

※白九郎なんですが、何となく黒九郎?
※ちょっとでも黒要素が苦手な方はご注意をば!



■Pm & Pw!


 「誰か!」

 望美がその叫び声を聞きつけたのは、不法駐車の取り締まりをする為にミニパトを下りた直後だった。

 声のした方を振り返ると、道路を挟んだ向こう側の歩道で、OL風の女性がアスファルトに尻餅をついていた。
 その女性の前を、キャップにサングラスという明らかに怪しいと見てとれる出で立ちの男が、その風体には到底似つかわしくないピンク色のハンドバックを小脇に抱えて走り去ろうとしていた。

 ――引ったくり!

 頭の中で叫ぶと同時に望美は走り出していた。

 車道を横切り、歩道と車道を仕切る為のガードレールをひらりと飛び越える。キキー、と盛大なブレーキ音が鳴り響いたが望美の耳には届いていない。風に煽られ婦警帽が飛んでいったがそれも気にしている場合ではなかった。

 涙目になっている女性に「任せて下さい!」と叫んで男の背中を捉え、駆け出す。

 警察学校に在学中から足の速さには自信があった。並の男になら負けはしない。

 だがしかし、望美は交通安全課の婦警であり、婦警の制服は何故かタイトスカートと踵のないパンプスというのが相場である。

 (は、走りにくい…!)

 タイトスカートは足にぴたりと吸い付いてくるくせに伸縮性がなくパンプスはバンドがない為踵が浮きやすい。普段なら既に追いついているはずの距離が縮まない。

 (どうしよう、逃げられるっ!)

 体力勝負となると女である望美には不利だ。瞬発力には自信があるが、持久力は乏しいことは自覚済みである。

 ぎり、と歯噛みした、そのとき。

 「――任せろ」

 颯爽とした風が横を通り過ぎた。
 望美が瞠目したとき、目の前をオレンジ色の髪が靡いていた。

 嘘、どうして?!

 望美が心中で叫んだとき、黒いスーツの背中は見る見るうちに引ったくり犯との距離を縮める。

 「逃げられると、思うなっ!」

 肉薄した声と同時に黒い背中がふと沈む。ざざ、とスライディングした足が引ったくり犯の足元を浚う。

 足もとを掬われた引ったくり犯は派手に転んだ。脇に抱えていたハンドバッグがぽーんと宙に飛びコンクリートの地面へと落ちる。

 望美は荒くなりはじめた息を整えながら立ち止まった。

 パンパン、とズボンについた土汚れを叩きながらスーツの男は立ち上がる。望美はその男に声を掛けようと口を開くと、男が少し先に歩き俄かにしゃがみ込んだ。男が掴んだのはピンクのハンドバックだ。ズボンと同じようにパンパンと汚れを払う。

 良かった、バックは無事だ。

 望美がほっと胸を撫で下ろしたとき、スーツの男の背後で引ったくり犯がふらりと立ち上がった。
 さっと血の気が引く。引ったくり犯は男の背中を捉えると、男に向かって拳を振りかざした。

 「危ない!」

 ――瞬発力には自信がある。

 望美はた、と地面を蹴った。
 望美の声に引ったくり犯が腕をかざしたまま振り返る。望美は駆け出した勢いのまま引ったくり犯の腕を掴みとりそして…――

 投げた。

 ぽーん、と先ほどのハンドバックよりも豪快に引ったくり犯の身体は宙を舞い、そしてアスファルトの地面に沈んだ。

 「ふう」望美は肩で息をつき、俄かに乱れた制服の襟を両手で正す。

 ――盛大な笑い声がその場に響いた。

 びくりと望美が振り返ると、ピンクのハンドバックを脇に抱えたスーツの男が腹に手を添えて笑っていた。

 「お、お前…普通大の男をな、投げるか?」

 「この腕力馬鹿が」男は涙目で望美を見やる。
 望美はかあ、と羞恥心を頬に上らせた。

 「う、うるさーい! そんなに笑わなくてもいいでしょー!?」
 「これを笑わずに何を笑えと言うんだ」
 「だ、大体私が投げなきゃ九郎さんが殴られてたんですからね! そこは感謝して下さいよっ」
 「その前に犯人からバックを取り返したのは俺だからな」
 「――二人とも。笑うのも叫ぶのも犯人を無事確保してからにして下さいね」

 ガチャリ、と手錠のかかる音に望美ははっと振り返る。
 見ると完全に目を回している引ったくり犯の傍に膝を折りその手に手錠をかけた男が望美を見返してにこりと微笑った。

 「す、すみません弁慶さ…じゃなくて藤原警部」望美は慌てて男――弁慶に敬礼する。
 弁慶はにこやかに頷いた。

 「九郎。望美さんの仰る通り、彼女が見事な一本背負いを決めてくれなければ君は今頃脳震盪を起こしてそこの引ったくり犯と一緒に地面に寝ていたやもしれませんよ?」
 「俺はそんなヘマはしない」
 「どうですかね。肝心なところで詰めが甘いのが君ですから」

 弁慶がにっこりと微笑んだ相手――九郎は渋面を作る。
 望美はふふ、と小さく微笑った。

 「弁慶さんの言う通りですよーだからちゃあんと感謝して下さいね? 源警部補?」
 「お前も一端に生意気な口を利くようになったな」

 意趣返しと九郎は望美の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。「ちょ、痛いです!」望美は九郎の手を止めようとするがその実楽しそうに笑う。

 「て言うか、何で二人がここに? ここら辺は私達堀川警察署の管轄内で、お二人の所轄内じゃないでしょ?」
 「さっきお前が車道に飛び出して止めた車があっただろう。あれが俺達の乗っていた車だったんだ」
 「…そういえば、派手なブレーキ音がしてたような」
 「危うく事故になりかけたんだぞ。交通安全課所属のお前が自ら交通事故を引き起こしてどうする」
 「う…す、すみません」

 しゅんと望美は肩を竦めた。「呆れたもんだ」九郎はそう言いながら唇を持ち上げ望美の両頬をむに、と掴んだ。「い、痛いです九郎さん!」望美はじたばたと足踏みをする。

 「二人とも、じゃれ合うのは後にして下さい」パン、と手を打って二人のやりとりを止めたのは弁慶だった。

 「九郎はまずそのバックを被害者の方に返してきて下さい。あと調書をとらなければいけないので、お時間があるときに堀川警察署の方へ赴いて頂けるよう説明を」
 「分かった」
 「望美さんは……とりあえず署に戻ったら署長からのお叱りと始末書提出を覚悟して下さいね?」
 「え、どうしてですか?」
 「それは…」

 望美が首を傾げたとき、「望美ー!」と後方から叫び声が聞こえる。見ると一緒に警察署からミニパトに乗ってきた同僚で、慌てた様子でこちらに走ってくる。

 「ちょっとあんた! 事が治まったならこっち来て手伝いなさい!」
 「え、何を?」
 「何を、じゃない! あんたが飛び出した所為で交通が一時遮断! 現在数キロに渡って渋滞中! 交通整理手伝いな!」
 「…きゃあああ! い、急ぐ!」

 同僚の背中を追って望美は慌しく走っていく。

 その背中を見送った九郎と弁慶は「さて、僕達は犯人の連行と、彼女の擁護に向かいますか」「だな」と笑い合った。














 思わぬ交通整理に体力と精神力を割かれ、望美はぐったりとしながら署に戻ってきた。

 だが署の玄関ロビーに入った途端、中の騒然とした空気に目を丸くした。

 「え、何なに? 何か大きな事件?」
 「ちょっと望美!」

 ばたばたばたと望美に駆け寄り、且つ詰め寄ってきたのは同じ婦警仲間達である。小さな署だ、所属課が違ってもそのほとんどが顔見知りである。その顔見知りが、本日非番の人間を除いて全員揃っていた。

 「何、皆揃ってどうしたの?」
 「あんた、あの五条ペアとどんな知り合いなわけっ?!」
 「五条ペア…?」

 望美はきょとんと首を傾げる。ずずいと婦警達は迫力を増して望美に詰め寄る。

 「藤原弁慶警部と源九郎警部補のことよ! あんたあの二人を知らないなんて言わせないからね!」
 「ああ、弁慶さんと九郎さんのことね」

 「二人とも人気者だなぁ」望美はへらりと微笑う。

 ――弁慶と九郎。五条警察署捜査一課に所属している二人は、その有能さと見目の良さで他所轄にも名が轟いている二人組である。この二人に落とせないヤマと女はいないと謳われているほどだ。

 「あんたどうしてそんなにあの二人のことを親しそうに呼ぶわけ?!」婦警仲間は顔色を変えて望美を見つめる。

 「今うちの署長のところに二人が挨拶に来てるの! お茶持ってた子に何の用か盗み聞きしてもらったら、あんたのことを話してるって言うじゃない! しかも会話の端々にあんたと親しそうな感じを醸し出してるって言うしさ!」
 「盗み聞きって…仮にも警察官がそんなことしていいの?」
 「それとこれとは話が別! さあネタは上がってるのよ、吐け春日望美巡査! あんたとあの二人の関係を!」
 「ここは取調室じゃないんだけど…」

 望美は婦警達の気迫にたじたじになりながらぽり、と指先で頬を掻いた。

 「えっと、あの二人は…」
 「妹なんですよ」

 え、と固まったのは婦警達だ。「あ、弁慶さん」望美が婦警達の人垣からひょこっと顔を出すと、ちょうど階段を下りてきていた弁慶が望美に向かってにこりと微笑んだ。

 呆然としている婦警達を避けながら、弁慶がぽんと望美の肩を抱いた。

 「彼女は僕の妹なんです」
 「い、妹ぉ?!」
 「いや、実際血は繋がってないんだけどね。私の母の再婚相手が、弁慶さんのお父さんなの」
 「で、でも苗字が違うんじゃ…」
 「ああうん。実は親同士の再婚が、私は高校生で、弁慶さんもとっくに成人した頃だったから、それなら苗字変えた方が何かと不都合あるからってお互い苗字変えなかったんだよね」

 望美は弁慶と顔を合わせてにっこり微笑む。弁慶もそれに頷き、あんぐりと口を開ける婦警達に微笑み返す。

 「ご挨拶に伺うのが遅れて申し訳ありませんでした。いつも妹がお世話になっています、皆さん」
 「もう弁慶さんっ、恥ずかしいから止めて下さい! もう子供じゃないんだから」
 「これだけ兄に迷惑をかけておいて何が子供じゃない、だ」

 がし、と無遠慮に背後から伸びてきた手が望美の頭を鷲掴んだ。「うわあ?!」望美の身体が背後に傾くが、しかしぽすんと逞しい胸に受け止められる。

 「あ、九郎さん」望美が頭をそらして見上げた先には、呆れ気味に嘆息する九郎の顔があった。しかしその片腕は望美の腰に回っており、望美の手は自然とその腕に添えられている。

 てかどうしてあんたらそんなに密着してんの?!とこれはそんな光景を眺めている婦警達の心の声だ。

 「さっきのこと、こちらの署長に弁慶が上手く言い訳しなければお前今頃懲罰ものだったかもしれないんだぞ?」
 「え、そうなんですか?! きゃーありがとうございます弁慶さん!」
 「いえいえ。犯人を逮捕しようとした君の心意気をそのまま署長さんにご説明したまでですよ」
 「…あのー。ちょっといいですか?」

 三人の会話に勇気を持って割って入ったのは、望美と同じ交通安全課に所属している婦警だった。ん?と三人揃って見返してくる。

 「藤原警部が春日巡査のお兄様なら…源警部補と春日巡査のご関係は?」
 「ああ、彼らは…」
 「恋人同士だが」

 さらり、と答えたのは九郎だった。「あ、九郎さん!」望美が声を上げるが時既に遅し。

 一瞬の静寂の後、署を揺るがすほどの大声量の叫び声が轟いた。

 「こここここ恋人って恋人って、ええええええ?!」
 「ちょっと望美! 一体全体どういうことよ!」
 「ど、どういうことって…そういうこと…」
 「聞いてないんだけどそんな話!」
 「言ったらこんな風に大騒ぎになるからでしょうが!」

 望美は顔を赤くしながら同僚達に噛み付く。「大騒ぎにもなるわボケ!」とこれまた婦警からの返答。
 「そんなに驚くことか?」「さあ」一人だけきょとんとしている九郎は弁慶を見やるが、弁慶は苦笑して言をはぐらかす。

 九郎は肩を竦めながら、しかし望美の腰を抱いている腕を更に引き寄せた。

 「望美。お前今日の上がりは定時だろう?」
 「え、ああはい。そうですけど」
 「俺達も今日はあと少しで上がりなんだ。久しぶりに外に飯でも食いに行こう」
 「そ、それは別に構わないんですが…」
 「おやそれはいいですね。是非僕も混ぜて下さい」
 「何故お前が付いてくる」
 「可愛い妹をそう簡単に盗られたくはありませんので」

 弁慶はにっこりと微笑む。九郎は実に嫌そうに眉間に皺を寄せたが、「まあたまにはいいだろう」と溜息をついた。

 「じゃあな、望美。また後で迎えに来る」

 ちゅ。
 と九郎は望美のつむじに唇を落とす。

 「きゃああああ!」と黄色だか青色だかピンク色だか何の色か分からない歓声が上がった。

 「くくく九郎さん!?」九郎から離れた望美は顔を赤らめながら振り返る。ふ、と微笑んだ九郎はぽんと望美の頭を一撫でして踵を返した。

 「それでは望美さん、また後ほど」弁慶も望美とその背後で唖然としている婦警達に微笑み、九郎の後を追う。

 「もう、九郎さんったら」望美は九郎に口付けられた頭をそっと撫でながら、その背中を見つめてふとはにかんだ。

 だがしかし。そんな幸せな余韻が長く続くはずもなく。

 「のーぞーみぃ?」まるで地の底から這って出てきたような声にがし、と肩を掴まれる。
 ひい、と声を上げておそるおそる振り返ると、そこには目が異様に据わっている同僚達がそこにいた。

 「ちょぉぉぉぉっと取調室までご同行願えないかしら?」
 「え、えーと……逮捕状もないし、それはお断りしたいところなんですが…」
 「だまらっしゃい! 強制連行に決まってんでしょうが!」

 さあどんな成り行きであの二人と知り合って且つ源警部補と付き合うまでに至ったのか全部白状してもらうからね!

 襟首を掴まれた望美はひいいい!と叫びながら婦警達にずるずると引き摺られて連行されるかたちとなった。










 ――その後。

 約束通り夕方堀川署まで望美を迎えに来た九郎だが、異様にぐったりとした様子の恋人に「そんなに激務だったのか?」と的外れな予想を立てて首を傾げたとか。









〜終〜









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寧ろ終われ(爆)
何か終着点が思いつかなくてこんなぐだぐだな終わり方になってしまいました…。うーん私もまだまだ精進が足りんなぁ。
しかしこれで書きたかったのは、「白九郎のまま黒の要素を出せるか?!」って実験。結果は、天然黒なら何とかって感じ?(笑) まあ白九郎はこんなにやすやすと恋人宣言出来ないと思いますがね( ̄▽ ̄;) パラレルだからこそ出来ること! 素晴らしいなパラレル!(コラ)
前半のシチュは、何となく図書●戦争のパロ。大の男を投げる郁ちゃんが望美ちゃんと被ってしまったので(笑)
ちなみにタイトルは『Policeman & Policewoman!』の微妙な略称です(爆)


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