現実逃避という自己防衛の旅を、自ら強制的に断ち切ったその魔女は、
少しの間だけ自暴自棄になってしまいました。
魔女は思ったのです。
箒から飛び降りた瞬間に踏みしめた第一歩は、余りにも冷たく、余りにも辛かったのに…。
それでも尚、
――なんて生温い歓迎なのかしら!
その日から眠る事を忘れました。
その代わりに、「痛み」を求める時間が増えました。
毎日過剰に飲んでいたそれまでのクスリが全て無くなり、それなのに通院も諦め、その為に身体が受けてしまう恐ろしい反動を喜んで受け入れ、
更に家事を一切自分でやると母親に宣言したのです。
――もっともっと自分を痛めつけてやる。
そんな何の根拠も希望も無い欲求だけが、魔女の生活の、生きる唯一の糧となりました。
メンタル的な自傷行為にひたすらすがりました。
幸いな事に…。
眠ると悪夢が彼女を大歓迎してくれました。
クスリ切れの反動で身体は動かなくなり、ナイフで身体を痛めつけるまでも無く自虐的な時間を手に入れることが出来ました。
しかしそれらの行為は、後に「良かった」と思える時間になったのです。
神様からの大きな贈り物でした。
魔女は本当についていると思います。
何故ならその魔女は、
「自らを傷付ける事で己の持つ本来のパワーを発揮できる性質」を持ち、
「自らの受けた痛みをもって力となす技法」しか持ち得ていなかったから。
一見、不器用で遠回りをしているかのようですが、そんな魔女には実はそれが「最短強行突破」の呪文だったのです。
人にはそれぞれのやり方があるのですから。
皆と違っていても、
皆に笑われたとしても、
誰かに忠告を受けたとしても、
自分を貫き通す事が時には必要です。
――無理をしたいのなら無理をすればいいだけの事。
彼女はそう自分を信じて、信じて、
一心不乱に「痛み」を貪り続けました。
時には、周囲の人を傷付けてでも。
我儘で自己中心である事を理解しながら。
やがて、
彼女の目の前に突然、色の鮮やかな世界が広がりました。
喜び、悲しみ、嫉妬、怒り、悔しさ。
そんな感情も蘇ってきました。
ほんの数週間で、その魔女は「現実」を取り戻しました!
「痛み」と引き換えに「力」と「自信」を手に入れる事が出来たのです。
悪夢が優しい夢に変わりました。
自虐的衝動が消えました。
目の前に立ちはだかっていた、分厚くて堅い壁を
一撃で破壊!
――なんて良い気分なの!!
今日からまた歩き出します。
時には、箒に乗ってまた空へ逃げる事も、「痛み」を貪る事もあるかもしれません。
けれどもそれが彼女の生き方であり
「自然体」なのです。
周囲をハラハラさせてばかりのお転婆で不器用な彼女は、
今日も笑顔で過ごしています。

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