スティーヴン・ソダーバーグ監督による2部作のチェ・ゲバラ伝、その第1部を見る。いみじくも東大安田講堂に立て籠った全共闘と機動隊との攻防戦から丁度40年目の日。あの時代を生きたもののひとりとしてなにがしかの感慨をおぼえずにはいられないが、このソダーバーグ監督作品のような昔なら「反米」プロバガンダと目される映画がアメリカ資本で堂々と作られることの時間の経過にまず驚かされる(映画はスペイン・フランス・アメリカの合作)。チェが殺された1967年という年も、安田講堂が陥落した1969年という年も、もはや歴史的時間のひとつにすぎないのだろうか?
映画に進行する時間は、リアルである。まるで、「武装闘争」というものが森の中の行軍、ゲリラ闘争そして都市部での白兵戦のことであると言わんばかりに迫って来る。この第1部ではメキシコでのカストロとの出会い、グランマ号によるキューバ上陸、首都ハバナへ向かうゲリラ戦、サンタクララ近郊での列車転覆事件、首都ハバナへの進攻といったキューバ革命のプロセスを時系列にしたがって再現している。
『セックスと嘘とビデオテープ』でデビューしたソダーバーグ監督(他に『KFKA/迷宮の悪夢』『ソラリス』など)の包丁捌きの手腕の成功は、この20世紀最大のイコンにまでなりおうせた革命家の英雄的な生涯を描くのにひとつのインタビューに注目したところにあるだろう。そのインタビューはキューバを牛耳る軍事独裁政権バティスタを打倒すべくメキシコに潜伏中だったフィデル・カストロとアルゼンチン出身の医師であったゲバラ青年が出会い意気投合して一昼夜を語り明かした1955年7月から数えて9年後、キューバ革命が成就したハバナでアメリカ人女性のTVジャーナリストであるリサ・ハワードの手で行われたインタビューである。
そのインタビューの中で、いまや革命政権の大臣となっていたゲバラは真摯に答えている。キューバ革命は中南米におけるアメリカ支配から抜け出す民族自立の革命の第一歩なのだ、と。
そして、その映画の冒頭におかれたリサ・ハワードのインタビューはおそらく第2部で展開するコンゴ、ボリビアへゲバラが転戦してゆく伏線になっているし、これはソダーバーグ監督の作品をはみだすが、青年ゲバラを描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』で24歳の若きゲバラがアマゾンのハンセン病(いわゆる「らい病」)病院を去る時に別れの挨拶で述べる若々しい決心――汎ラテンアメリカ主義とでも言うべきインディオを含めたラテンアメリカ(中南米)はひとつであるという理想に呼応するものなのだ。
よく出来ている、それに銃弾の飛び交う戦闘シーンなどリアルである。しかし、これをエンターティメントを期待して見に行った観客はガッカリするだろう。なんの予備知識も無しに見に行けるような作品ではない。そのことは注意喚起しておきたい(そのためか、映画のはじまりに配給会社がつけた余計なゲバラ説明クレジットがでる)。だが、その上でも「異義なし!」と叫びたい!
この映画に、キューバの民衆は熱狂しフロリダを中心に住む旧キューバ人は抗議のデモをしたと聞く。さもありなん。
ラストのクレジットで流されるチェを称えるキューバ音楽がいい。「チェ・コマンダンテ(Che Comandante)」をしのぐ傑作かもしれない。そう、それからゲバラを演じたベニチオ・デル・トロの成りきりぶりに拍手を送る!
(写真は映画の紹介サイトより引用)
スティーヴン・ソダーバーグ監督作品/ベニチオ・デル・トロ主演(08年カンヌ国際映画祭主演男優賞)/2008年スペイン・アメリカ・フランス映画 評価(★★★★)
公式サイト→
http://che.gyao.jp/

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