「私…湖に落ちた、シィプさんとユウさんを助けてきます。」
リビルはそう言って、ダークを少し警戒しつつ湖へ潜った。
「(気を付けろよリビル…。) 取り敢えず、ダークを空中から降ろさないとな…。」
「あ!じゃあ、あたしが行くよ! ホラ、あたし飛べるし!」
クアンの呟きには、リクルが答えた。
「それに、『シャドーボール』と『ナイトヘッド』は、あたし当たらないし!」
まるで飛べることをアピールするかのように、リクルは空中浮遊しつつ、言葉を続けた。
「でも…。」
クアンにとっては、リクルを行かせるわけにはいかなかった。
たとえ『シャドーボール』と『ナイトヘッド』を封じても、ダークには広範囲を攻撃出来る『悪の波導』があるから。
オマケに、ダークは普通に殴ったり蹴ったりしてきただけで、けっこうなダメージになるのである。
しかし、いつダークが攻撃してくるか分からないこの状況で、他に良い方法が思いつくわけもなく―――
「…分かった。」
承諾するしかなかった。
クアンの返事を聞いてリクルは、
「じゃ、行ってきま〜す!」
と、まるで友人の家に遊びに行く時のようなノリでダークへ向かって行った。
「ダク兄っ!いつまでも浮いてないで降りてきてよー。」
一応、打撃攻撃を喰らわないように、ある程度離れて声を掛けてみる。
が、
「………。」
無言で睨まれた。気がした。
実際は、ただ感情の無い、今は操られているのかもしれないダークが、リクルを見ただけである。
「―――ッ!!」
しかし、リクルはそれだけで怯んでしまった。
(こ、恐っ!! 無理無理無理無理、勝てない勝てない!!)
ガタガタと震え、明らかに怯えるリクル。
無意識のうちに少し後ろへ下がる。
(…はっ!び、ビビってる場合じゃないよ!)
怯えつつも我に帰り、首を横に振ってそう考える。
そして、もう一度ダークを見、少し眉間にしわを寄せて構える。
(あ、そうだ!「攻撃する」って考えるんじゃなくて、いつも脅かされてるから、「その仕返し」って考えればいいんだ!)
構えた後、そんな事を思いついたリクルは1人で「うんうん」と頷き、勝手に解釈する。
お陰でリクルは、少し気が楽になった。
「(よしっ!)ダク兄ーっ、無視するんだったら攻撃しちゃうからねー!」
しっかりとダークと目を合わせ、リクルはそう言った。
若干楽しそうに聞こえてしまうのは、リクルが「仕返し」という理由で攻撃しようとしているからだろうか。
「……返事無し、っと! いっくよー!」
少し待ったが、ダークが全く反応を返さないので、リクルは技を発動する為に構える。
一気に上昇し、その後急下降。其処からダーク目掛けて猛スピードで突っ込む。
あまりの速さに、途中で一瞬リクルを見失う程。
―――『ツバメ返し』である。
ズシャアッッ!!
リクルの『ツバメ返し』が、ダークに華麗にヒットした。
―――が、
直撃して、傷も付いた筈なのに、ダークは何事もなかったかのようにリクルの方を向いていた。
「え…?」
リクルが疑問の声を小さく漏らした。
『ツバメ返し』が直撃したらしいダークの右肩からは、血が流れて出ている。
にも係わらず、ダークはまるでそこに床があるかのように空中を蹴り、一瞬にしてリクルに近づいた。傷など負っていないかのように。
そしてリクルの右の羽を力強く掴み、眉間にしわを寄せてリクルを睨んだ後、真下へ向かって放り投げた。
いや、放り投げたというよりは、叩きつけたに近かった。
そしてリクルは激しい音を立て、湖へ沈んでいった。
「!! リクルっ!!」
湖へ叩きつけられ、大きな水飛沫を上げて沈んでいくリクルを見て、クアンは思わず走り出した。
「! クアン…!」
ローズの呼び止めも聞かずに。
あっという間にクアンは湖へ入り、そのまま潜っていった。
「…まったく…っ。」
あまりの速さに少し引きつつも、ローズは少し呆れていた。
"仲間のことになると後先考えずに突っ走る"、それがクアンである。
そうやって少し思案しているローズを横目で見ていたレイスは、あることに気が付いた。
クリアが、ギリギリと歯を食いしばりながら―――拳を強く握り締めながら―――物凄い形相で、ダークを睨んでいることに。
「く、クリア…?」
滅多にそんな顔をしないクリアにレイスは少し怯みつつも、クリアに声をかけた。
「…リク姉攻撃するなんて…ダク兄でも許さない…っ!」
しかしクリアの耳にレイスの言葉は届かなかった。
自分より小さい怒りの塊に怯えたレイスが、思わず1歩下がった瞬間―――
「雷ィィィィィィィッッ!!!」
クリアが、自らの持っている技の中で1番攻撃力の高い技―――『雷』を繰り出した。
雷はあまり命中率が高くないが、当たらないわけではない―――。ダークにクリティカルヒットした。
さすがに効いたのか、ダークが少し顔を歪めた。
雷が消えた後少し間を開けて、ダークはクリア達がいる地面へゆっくり降りてきた。
ダメージが大きかったのか、少しフラフラしている。
「リク姉がケガしちゃったらどうするのっ!?」
そうダークに叫んだクリアは、拳を強く握り締めていたものの、表情はさっきと打って変わって、少し潤んだ眼をしていた。
しかしダークから返事はなく、無言の時間が少し流れた。
「…ダク兄ヒドイ…っ!!」
そう言って、クリアは泣き出した。色々な感情が涙となって溢れ出ているかのように―――。
それを少し見つめた後、ダークは1歩、また1歩とクリアに近づく。
クリアは未だ泣いている。近づくダークには恐らく気が付いていないだろう。
それを少し離れて見ていたレイスが、怯えから我に帰り、
「く、クリアを傷つけたら…いくらダク兄でも許さねぇッ!!」
ダークの前に立ちはだかった。
言葉どおり、クリアを守るように両腕を広げて…。
それを見たダークは、歩を止めて目線だけを少し俯かせた。
しかしそれもほんの1,2秒のことで、ダークはまた歩き出した。
ダークを睨みながら足を少し震わせているレイスの前に立ち、人間でいう胸倉の辺りを掴む。
だが今度はリクルのように叩きつけるようなことはせず、勢いよく自分の方に引き寄せ、レイスの耳元で何かを囁いた。
「―――!!」
レイスはそんなダークに驚き、目を見開く。
ダークはレイスを押すようにして自分から離し、胸倉を掴んでいた手も離した。
それと同時に、
「レイスから離れなさいっ!!」
というローズの声が響き、同時に深緑の葉が飛んできた。
ローズが持つ、"必ず当たる"技―――『マジカルリーフ』。
勿論ダークに当たった。
飛ばした葉は全てダークに当たり、役目を終えた葉は静かに地に落ちた。
ダークは体制を立て直す為か、後ろへジャンプして少し距離をとった。
それを見た後、ローズは走ってレイスに近づき、座り込んでいるレイスの横にしゃがんだ。
ローズが見ると、ダークの近くにいた所為で多少被害があったのか、レイスの右腕が少し切れていた。
「…当たってしまったのね。ごめんなさい。すぐに手当てを…。」
ローズはそう言って自らの鞄の中から包帯を取り出した。
「…だ、ダク兄が…っ。」
まるで傷の手当てをしてもらっていることに気が付いていないかのように、レイスは驚愕の表情を残したまま、小さな声で呟いた。
「ダークがどうかしたの?」
いつ攻撃されても対処出来るように、ちらちらとダークを見ながら、ローズが尋ねた。
「お、俺を押したんだ…。ロズ姉のマジカルリーフが当たる瞬間に…。」
搾り出すようにレイスは呟く。
「押した…?どうして…。」
少し怪訝な顔をしてローズは問う。
「あのままじゃ俺が喰らったから…俺を押して攻撃範囲から出したんだ…!」
「!? ダークは操られているのでしょう…? どうしてそんなことが…。」
ローズの怪訝な顔が、驚愕の顔に変わった。
「違う!ダク兄は正気なんだよ!!」
レイスはそう言い切った。
「!? 正気…!?」
あまりの驚愕に、包帯を巻くローズの手が止まる。
「絶対そうだ! じゃなきゃあんなこと言うわけ…!」
「…いつ、何を言われたの…?」
「さ、さっき…ダク兄が俺の胸倉掴んで引き寄せた時…。」
レイスは、強く掴まれたらしい部分を左手で触りながら言った。
「……あぁ、あの時…。」
それを見てローズは自分の記憶を辿り、思い出してから返事をした。
あの時、確かにダークはレイスの耳元で何かを囁いていた。
―――邪魔しなきゃ攻撃しねぇ。危ねぇからちょっと退いてろ。
レイスの耳には、そう聞こえたという―――。

0