2013/3/5  22:39

インフレ目標2%は達成不可能 1  経済

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野口悠紀雄氏:インフレ目標2%は達成不可能」文字起こし
公開日: 2013/01/26 http://www.videonews.com/

話し手:野口悠紀雄 聞き手:神保哲生





神保: 野口先生には何度もお越しいただいてお話をうかがっているのですが、相変わらず経済の門外漢の私たちは苦労しておりまして、ここにきていよいよ政治の大きな争点がアベノミクスといわれる、その3つの柱、そのなかでも金融政策が政府の正式な政策として出てきたと。野口先生は一貫として金融緩和では経済の活性化はできないと、以前にもお話しいただきましたが、政府はとくにそれをいちばんの柱に据えています。昨日、日銀が政策決定会議を開き、形の上では2%という数字も出ています。そのあたり、先生はどう評価されるのか、お願いします

野口: 金融政策の議論をするときにいちばん重要なのは、金融政策は効果がないということが、過去のデータからはっきりわかるんですね。ですから、まずそのことを確認する必要があります。日本はこれまできわめて大規模な金融緩和をやっているんです。2001年から2006年まで、量的金融緩和政策というのをやりました。さらに、2010年からいまに至るまで緩和政策を続けています。どちらも効果がなかったんですね。効果がなかったという意味は、物価上昇率に影響するとか、投資が増えるとか、GDP国内総生産が増えるとか、そういった効果がいっさいなかったということです。それだけでなく、金融政策の大前提にある金融緩和をすれば、経済全体にあるお金の量が増える、これが実現しなかったんですね。経済全体にあるお金の量をマネーストックといいますが、それが増えなかった。ここはもう少し専門的になりますが、お話しする必要があると思います。金融緩和というのは何をやっているのかといいますと、日本銀行がですね、銀行が持っている国債を買う、これが金融緩和です。なぜこれが金融緩和化といいますと、銀行の持っている国債を日銀が買う、するとその代金はですね、銀行が日銀に持っている当座預金に振り込まれるんです。当座預金が増えるんです。この当座預金のことをマネタリーベースといいます。いわばお金の元になるものですね。教科書的な議論によりますと、このマネタリーベースが増えますと、経済全体のお金の量、これをマネーストックというんですが、マネーストックが増えるということになっているんです。これを期待しているんですね。ところが実際何が起こったかといいますと、2001年から2006年までの間に、たしかにマネタリーベースは増えました、当然のことです、金融緩和をやったんですから。約2倍に増えたんです、この間に。著しい増大ですね。ところがマネーストックの方は、同じ期間に10%しか増えなかった、ほとんど増えなかった。額でいいますと、マネタリーベースは50兆円増えた、マネーストックの方も50兆円増えた、つまりマネタリーベースが増えた分しか効果がなかったということですね。で、教科書による議論では、マネタリーベースが増えると、お金の元になるものが増えると、銀行がそれに反応して貸し出しを増やすと、貸し出しを増やすとそれが預金になって返ってくる、預金というのがマネーですから、こういうプロセスで経済全体にお金が増えると、こういう風になっていたんですね。こういうことが起きるだろうといわれていたんです。そのプロセスは起こらなかったんですね。つまりお金を増やそうと思っても増やせなかったんですね。つまり、当座預金が増えれば貸し付けが増えるはずなんだけども、経済の全体に貸し付けの需要がない、企業は投資をしようと思っていない、したがって、貸し付けが増えない、このためにマネーストックが増えるということがなかったと

神保: で、結局、当座預金の中に塩漬けになっていたということなんですね

野口: 当座預金が増えたというそれだけだった。簡単にいえばそういうことです

神保: で、いま2%という数字が出てきたり、さらに無制限の金融緩和、お金をじゃんじゃん刷るという話が出ていますが、それはそうすれば多少は、さきほどおっしゃっていたマネーストックは増えてくる可能性というのはあるんでしょうか?

野口: 2%というのは消費者物価指数の年間の上昇率を2%にしようってことですね。これはできません、これははっきりいえます。1990年時代の日本でですね、消費者物価の上昇率が1%を超えたのは1回しかありません。これは2008年、このときは原油価格が上昇した。原油価格が上昇したために、日本の消費者物価指数が1%上昇した。これが1回かぎりです。それ以降は、だいたいマイナスの年が多かった。先ほどの量的緩和の時期もだいたいマイナスなんです。そういうことを考えると1%ですらできるはずがない、2%というのは、まず絶対、不可能なんです。そう言ってよろしいかと思います

神保: それは刷るお金の量を大幅に増やしたとしても、先生はむずかしいと。

野口: それは先ほど申しました当座預金が増えたということなんですが、日銀券を増やすというのですが、いま普通の取引では日銀券はあまり使いませんので、当座預金を増やすといった方が適切なんですが、当座預金の代わりに日銀券といってもいいですが、日銀券を増やすといっても、それだけのことだったということですね。だから、物価にも影響ないし経済にも影響がない。それどころか、経済全体のお金の量、預金も増えなかった。これが過去のデータの実際です。これがいま申した消費者物価が1%上がったのは、原油価格が値上がったときだけなんです。ほかは金融緩和の時期もだいたいマイナスなんです

神保: とすると、先生からみると、インフレターゲット、あるいは金融緩和によって経済を活性化するべきだと主張するスクールというか、その論理を先生はどういう風に分析しますか

野口: 論理より前に、実際のデータを無視している

神保: 実際には上がらなかったと

野口: 教科書どおりのことが起こらなかったと

神保: それは先ほどおっしゃった貸し付け需要がない、企業がお金を使うニーズがないと

野口: そうです

神保: だから銀行から借りないと

野口: そうです、そこを変えないとどうしようもないわけですね。しばしば金融政策っていうとですね、糸では引けるけれど、押せないだろうと、よくいわれるんですね。金融を引き締めて、過熱気味の経済を引きしめて引くことはできる、でも活性化していない経済を押すことはできない。糸のようなものだとよくいわれますね。そのことが現実の日本で起きているということですね

神保: それじゃ、個別に、なんで日本がお金が増えなかったのか、なんでそれが実現するといっているのか、そこらを先生に意見を伺いたいのですが、たとえば、ひとつの主張として、金融緩和をすれば、ちょっと専門的なのですが、実質利子率が低下をする

野口: これは経済理論の著しい誤解です

神保: 実質利子率が低下をするので投資が増加するっていう

野口: こういう議論の前提になっているのは、名目金利実質金利インフレ率という関係があるんです。フィッシャー方程式といいますが、で、インフレ率が上がったときに、名目金利が一定だから実質金利は下がるっていう議論です。それは間違いです。インフレ期待が上がると、実質金利が一定で、名目金利が上がるんです。実質金利が下がるってことはないです。個々の借入者の立場からみるとすればですよ、たとえば住宅ローンを借りてる、で、そういう人からみれば、名目の金利は固定されていますね。ですからインフレ率が高まると実質的な負担は減りますね、一人一人の借入者からみればそういうことは起こるんです。ただ、経済全体では何が起こるかというと、インフレ期待が高まれば、名目金利が上がるんです、まったく誤解しています、これは。一人一人の人間からみて正しいことを全体に拡大しようとしてるんで、これを合成の誤謬といいますが、明白な合成の誤謬に陥っています。だから、実質金利が下がることはありません

神保: まず、一点目としてインフレ期待が高まれば実質金利が下がるというのは間違いであると

野口: 間違いです。明白な間違いです

神保: はい、それでは二点目でいわれることは、インフレになるとみなさんが期待すると、消費が繰り延べされなくなると、お金持っておくと損しちゃうから使ってしまおうと、そういうことで消費が増える、支出が増えるんじゃないかとよくいわれます。

野口: これも明白に間違いです。一見したところでは、将来高くなるのだからいま買おうとなりそうに思うのですが、そうはならない。なぜかといえば、いま申したように、名目金利が上がるからです。名目金利が上がるから、いま買わないで貯蓄して将来に持ち越しますね、そうすると名目金利分だけお金が増えているわけでしょ、だからインフレになっても同じ量だけ買えるんです。だからインフレになったところで、人々が買い急ぐということにはならない。これもひじょうに重要なことです

神保: すると、物価上昇率と名目金利の上昇の度合いはほぼイコールと考えてよいと

野口: それが先ほどのフィッシャー方程式といって、名目金利=実質金利+インフレ期待という式ですね。ですからインフレ期待率が10%上がれば、名目金利も10%上がるという関係性ですね

神保: そうすると、あと先生の方で、この金融緩和が経済の活性化につながるといっている根拠になっている部分で、これはあるかもしれない、あるいはこれはない、ということがほかに何かありますか

野口: 先ほども申したように、金融緩和は実体経済に何も影響を与えていない、という過去のデータを率直にみるべきですね、まずこれをどう考えるか、私はこれを聞きたいです。このデータを無視して議論をするのは、科学的な議論ではありません

神保: これは結局、あれですね、上がるんだ上がるんだとあれだけいえば、かなり個人的な精神操作をされているように、個人的には、素人ながら思うんですが

野口: 精神操作ではなくて、資産価格というのはもともとそういう性質を持っているんです。たとえば株が上がると、株を買いますね、だから、株は上がりますね、不動産もそう、上がると思えば買う、だから上がる。こういうことは起こるんです。ただし、それがどこまでも続くかというと、実体経済と乖離してしまう。それがバブルですけども、どっかでチェックされることですね、これは実際に日本で起こったことですね。1980年代に不動産が上がると思うから、みんな不動産を買って、不動産が上がりましたね。でも買いすぎると、実際に不動産はそんなに収益を持たないということがわかって崩壊するわけですね。で、日本の場合、1990年頃崩壊しましたね。それで経済が大混乱しましたね。株も同じ動きをしました。38,000円くらいまで行ったものが落ちたわけですね。だから、バブルってのは起こるわけです。バブルは起こる、バブルは起こるけれど、実体経済と乖離すると、どこかで破綻するんです

神保: そこで先生ね、実体経済という言葉も素人にはなかなか難しいのですが

野口: 株でいえば、企業の収益です。不動産でいえば、不動産を使ったときの収益

神保: それがね、人々が上がるって期待するから上がるって話はバブルじゃないんですかって、じつは高橋洋一さんに聞く機会があったんですが、いやこれは実際にはマネーが増えているという実体があるから、バブルじゃないんだという説明をされたことがあるんです

野口: 不動産の価格が上がれば、その取引にお金が必要になりますから、自動的にマネーストックも増えます。マネーが増えたからバブルになったんじゃなくて、逆ですね、因果関係は。取引が増えればそれにともないお金が必要なのでマネーが増えます。それは当たり前です

神保: それは先生のお考えだとバブルなんですか

野口: 1980年代に日本で起きたことはバブルでした。いまの株式市場もたぶんバブルです。企業の実体はまったく改善していない、経済の実体はひじょうに厳しい状態にある、にもかかわらず株価だけが上がっていくのは、たぶんバブルですね

神保: もうひとつ、これもよくいわれているのですが、そうはいいつつも、いまかなり円安の方に振れたと、原因については諸説ありますが、要するに円安に振れた結果、少なくとも輸出関連企業にとっては、まあプラスになるんじゃないかと、これはある意味で実需といえるんじゃないかという主張はどうなんでしょう

野口: 円安になって輸出産業の利益が増えるんじゃないかというのは、それは間違いなくそうです。いま自動車産業がその恩恵に浴していますね。ただ、同じことが2005、6年にも起きたんです。これもバブルだったんです。だから、経済危機後に崩壊して急激な円高になりました。で、自動車産業が大変なことになりました。で、いまの円安をどう見るかということですけども、一般には安部バブルのせいで円安になっていると思われているんですが、そうではないんですね。なぜかというと、いまの円安がはじまったのは去年の10月頃からです。まだ、安倍政権が発足するだいぶ前です。なぜこうなったかといいますと、ユーロ危機が一服したからです。ユーロ危機が一服して、それまでユーロから日本に流れていたお金が逆流したんだと思います。ユーロから日本に入ると円高になりますね、それがユーロに戻ったということは円安になりますね。これが円安の基本的な理由だと思います。その証拠に、去年の10月頃からイタリア国債の利回りは低下しているんです。7%くらいから4%くらいに、それとほぼ対称的に円安になっている。ですから、円安の基本的な理由はユーロ、ユーロの動向です

(つづく 敬称略)
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2014/1/27  1:42

投稿者:コタツ

「文字起こし」について拍手コメントありがとうございます。野口先生の予測、まる一年経ちましたが、当たっていますね。

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