「わが恋」
わが恋は、住吉浦の夕景色
ただ青々と待つばかり、待つはよいもの辛いもの。
我が恋は、細谷川の丸木橋
渡るに怖き渡らねば、可愛い十市の手が切れる。
奥山の、紅葉踏み分け鳴く鹿の
声聞く度に慕い来る、逢うてどうしよこうしよう。
初花が、夫の勝五郎介抱して
箱根の山を引く車、さても貞女な操かな。
「和歌ノ浦には」
和歌ノ浦には名所がござる、一に権現、二に玉津島
三に下がり松、四に塩釜や、天立橋切戸の文字
文殊さんはよけれども、切れという字が気にかかる
ささ何としょう、どうしようかいな。
あかぬ別れに袖引き止めて、いつのごげんと
今日偶さかに、逢うて程もなくもう後朝よ
文の架け橋渡りに船の、船頭さんはなけれども
思いの綱を結びたや、ささ何としょう
どうしようかいな。
隅田川には名所がござる、主を三囲わがつま橋に
縁の橋場を待乳山、とうから思いはあの鐘淵
土手の桜はよけれども、移ろう色が気にかかる
ささ何としょう、どうしようかいな。
四季の雨にはとなえがござる、一に春雨、二に俄雨
三に五月雨、四に秋の雨、傘を差しても時雨に濡れる
と云うのはよけれども、降ると云うのが気にかかる
ささ何としょう、どうしようかいな。
「わがもの」
わがものと、思えば軽き傘の雪、恋の重荷を肩にかけ
いもがり行けば冬の夜の、川風寒く千鳥啼く
待つ身に辛き置炬燵、実にやる瀬がないわいな。
逢わぬ夜は、胸も曇りて朧夜に
いとど淋しき一人寝の、枕にもたれくよくよと
思い廻せば廻すほど、待つ身に辛き夜半の鐘
実に辛いじゃないかいな。
我が妻と、思えばとかく朝夕は
恋の欲目かくよくよと、今頃主は何してと
かわから智慧を借りの文、待つ身は辛き長見せの
実に苦界じゃないかいな。
「わしが思い」
わしが思いは三国一の、富士の御山の白雪
積りゃするとも解けはせぬ、浮名立つかや
立つかや浮名、あんなお方と言わんすけれど
人の心は合縁奇縁、ほんに体もやる気に
わしゃなったわいな。
「わしが国さ」
わしが国さで見せたいものは
昔ゃ谷風いま伊達模様、床しなつかし宮城野信夫
浮かれまいぞえ松島ほとり、ションガエ。
都名所で見せたいものは
嵯峨の桜に高雄の楓、生絹浴衣に河原の涼み
他にないぞえ円山雪見、ションガエ。
越後名所で見せたいものは
秋鳴く鹿に山時鳥、砧の音よ
他にないぞえ田毎の月見、ションガエ。
「わしが在所」
わしが在所は、京の田舎の片ほとり
八瀬や大原に牛引いて、柴打ち盤床几
頭へちょいと乗せて、梯子買わんせんかいな
黒木買わしゃんせ、エーエー。
在所来てみりゃ、風に案山子の武者ぶるい
千里垂れ帆に昼の月、豊年じゃ
馴れて鳴子に群雀、とんぼとんぼ赤とんぼ
渡り鳥が行く、ホーホー。
わしが在所は、両国橋の片ほとり
桜並木の桜茶屋、朝晩に
かもめと遊ぶ果報者、近くにチョチョン長命寺
桜餅じゃよ、エーエー。
「わしに逢いたくば」
わしに逢いたくばナー、裏の三尺小窓の間より
小石混じりの荒砂を持って来て
パラリパララっと撒かしゃんせ。
「渡る世間に」
エーイ、ちょいとしたことに
我が土地ょチョイト飛び出して、脚絆に頬かむり
笠に杖、長い松原通るとき、傘にぽつりと当りしが
雨かと思えば松の露、またもや袖にと当りしや
露かと思えば我が涙、情けない
ほんに我が土地ょ飛び出して、渡る世間にチョイト鬼は
鬼はないぞえ、やがて見返す時も
アラドッコイショある。
「我が住家」
我が住家は隠れ里、猫が三味弾く鼠が唄う
小唄の面白や、これを思えばやっこらさ
浮気思惑笹舟に乗せて
舵を枕に寝て焦がりょ、しょんがえ。