2018/6/2

4463:ONE  

 私は1時間ほど例のビジネスの話をしながらも、視界の端に映り込む黒く見慣れないオーディオ機器のことが気になっていた。

 それは「オーディオショップ・グレン」の横長の三段ラックの右端の上段に置いてあった。1Uサイズの躯体が2段になっていた。

 私は、頭の片隅で「これが、小暮さんが言っていた、『ちょっと変わったもの』であろうか・・・?確かに見慣れないものだけど・・・どこのメーカーであろうか・・・?2段構成のプリアンプのようだが・・・年代的には19990年代、あるいは1980年代のものか・・・」と考えていた。

 一通り例の話を終えて、引取りの日程の候補日も絞った段階で、「これですか・・・?ちょっと変わったものって・・・」と小暮さんに話を振った。

 「そうそう、これね・・・最近引き取ってきたんだ。ジェフ・ローランド・・・」

 「ジェフ・ローランドですか・・・現在のきらきらしたデザインとは随分と違いますね・・・」

 「これはコヒレンス ワンと言って初期のプリアンプで1990年の発売・・・1Uサイズの躯体が二つ重なっていて、下が電源部で上がコントロール部、これはブラックだけど、シルバーやゴールドのバージョンもある。これが実にいいデザインをしていてね・・・うちで扱うには少し年代が新しんだけど、このデザインの良さにほだされて仕入れてみたんだ・・・音も聴いてみたかったしね・・・もちろんトランジスターだけど、真空管のパワーアンプとの相性は悪くないみたい・・・フォノイコライザーも内蔵されているから、使い勝手は良いんだよね・・・」

 現在のジェフ・ローランドのデザインとは随分と趣の違うものであるが、そのデザインは清潔感に溢れている。

 シンメトリックに配置されたノブやスイッチは控えめでありながら、その存在感を確実に主張している。全体からはこの造形を生み出した人間のもつ自然で調和のとれた性格を感じる。

 その音の具合もなんだか聴く前から想像できるようなところがあった。レコードを数枚かけてもらった。

 レコードプレーヤーはRoksan XERXES10、プリンプがCoherence OneでパワーアンプがLEAK TL-10、そしてスピーカーがTANNOY CORNER CANTERBERYというラインナップであった。
 
 清澄ではあるが冷たくならず、リッチな雰囲気を持った音の質感である。コンデンサーだからといった先入観を覆す自然な質感を有している。

 枠を壊すような熱気といったものからは遠いポジションに立つが、常にバランスを取りながら細い綱を渡っていくような、しっかりとした意思を感じさせる。

 「良いプリアンプですね・・・」

 「この年代のものって、なんだか見直すべきものがあるよね・・・デザインも含めて・・・」

 「そうですね・・・1990年というとほぼ30年前ですか・・・ヴィンテージに片足を突っ込んでるって感じでしょうか・・・整備も大変じゃないですか・・・」
 
 「そうだね、多くの部品を交換しないと、ちゃんとした音が出ないからね・・・でも、この時代のものって、熱意というか勢いというか、製作者が製品に込めたエネルギーがちょっと桁外れな気がする・・・」

 「アーティストもそうですが、とある年代が抜群に良いということがありますよね・・・エンジニアにも抜群に冴えている時代があるのでしょう・・・それは概ね30代半ばから40代前半ぐらいじゃないですか・・・その後はその時の勢いを活かして滑空している感じで・・・しかし、それにしてもこんな組み合わせで音楽を聴いているオーディオマニアはいないでしょうけど・・・」

 「確かにあり得ない組み合わせだよね・・・どう、このプリ、Marantz 7の代わりというか代打というか・・・予備に1台・・・」

 そういって、小暮さんは笑った。その表情には確かに悪代官的な不敵さが少々潜んでいるように感じられた。



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