2009/9/30

スクロヴァチェフスキ ブルックナー 交響曲第9番 読響 芸劇マチネ 9/23  オーケストラ

読売日本交響楽団でのスクロヴァチェフスキの常任指揮者としての任期も残り少なくなり、この9月のシリーズが終わると、あとは来年3月を残すのみとなる。9月のシリーズから、ブルックナーを中心とするプログラムを聴いた。

まず、ブルックナー『交響曲第9番』から。イージーなミスも少なくなく、練度不足が指摘できるが、そういう部分には目をつぶって、こころで感じたいものの多い演奏だったといえる。スクロヴァチェフスキと読響のアーティストたちは、ブルックナーの9番が彼自身の作品を含めて、過去のどの作品にも似ていない、インディペンデントな価値がある作品であることを、つよく主張した。

どちらかというと、ブルックナーは保守的な作曲家だが、一方で、そうした使い古された要素から驚くべき新鮮な息吹きを引き出した人もいない。そのなかでも、この9番は図抜けている。その意味で象徴的なのは、もちろん、スケルッツォになるかと思うが、特に今回の演奏ということに限っていうならば、第1楽章の響きの作り方にこそ、その秘密がもっともよく表れていた。特に1つ1つのフレーズを敢えて連結させず、インディペンデントに扱っていくことで、構造を成すそれぞれのパーツがその場限りでいのちを使い果たし、一回的に輝き、かつ、失われていくような音楽づくりには、呆気にとられた。

このことは、それ自体が人間の在り方に照応されて、示唆的な意味を持っているが、具体的(音楽的)には、大きく2つの効果をもたらしている。1つは、聴き手の興味をいつも一歩先に向けるということ。もう1つは、たとえ技術的に出来の悪い瞬間があったとしても、音楽が停滞しないということである。例えば、第1楽章最後の勇壮な結びである。直前の静かな部分で金管にすこし目立つ瑕が出たが、それをいうのも瑣末というほど、次の瞬間から響きが別ものになる。弦のエネルギッシュな下支えから、金管がめげずに膨らんでいく部分の物凄さは、全編のなかでもとりわけ印象的なものを残す。

スケルッツォは、トリオの美しさが無類であった。弦楽器がほんの数本しか使われていないかのような、室内楽的で、清澄な響き。「主部」のデモーニッシュな部分をフェイクに使い、むしろ「トリオ」に実体があるというイメージが明確に、演奏のなかに表れている。これを天国の響きとすれば、マーラーがそれを受け継いだともいえそうなアダージョのあやしく、暗鬱な輝きや、『トリスタン』に倣ったかと思われるひどく尖鋭で、クラスタ的な書法として表れる第3楽章は、地獄の音楽ということになるのだろうか。

そして、この流れの最後にあたるクライマックスで、オーケストラの真ん中をなにか神聖な存在が通っていくように、あるいは、迷いを断ち切るように響きを踏み固めるときのキレの鋭さは、それが音楽世界にとって、来るべくして来たものであることを物語るだろう。

第3楽章は、今回の演奏で圧倒的に見事であった弦楽器群にポイントがあった。特に、展開部における深いストーリー・テリングは、楽曲全体をぐっと引き締めている。総休止の盛り上がりでは、まるでパイプ・オルガンのような厚みのある、神々しい響きが導かれるが、その中心部から響きを必死に押していたのも弦楽器だ。ノーラン率いる弦の涙ぐましい働きは、この演奏のコアに置かれるものとして相応しいものだった。ストリングス全体が賞賛すべき働きをするなかでも、ノーランはときに一人で変化をつけるような瞬間まであって、この稀有な才能に恵まれたコンマスの存在価値を、いまさらながら思い知らされる。

前半は、アンドレ・ワッツの独奏ピアノによるベートーベンの『ピアノ協奏曲第4番』。ワッツは、ベートーベンが書き残した感情の動きを、音楽的な構造のうえでしっかりと捉え、それを誇張なく、素直な表現として貫き通すことによって、素晴らしい効果を得た。この推移は、ピアノとオケの重なりのなかで丁寧に組み立てられ、スクロヴァチェフスキの好サポートも印象的だ。謙虚な表現だが、ノーヴルな音色は忘れがたいものであり、要所で適切な自己主張を交えながらも、すっきりした表現であった。甚だ言い足りないのだが、このあたりにしておく。

特別に、もう残り少ないという感傷性はないようだが、いつもながら手抜きのないスクロヴァチェフスキの音楽づくりはさすがであったとしておきたい。

【プログラム】 2009年9月23日

1、ベートーベン ピアノ協奏曲第4番
 (pf:アンドレ・ワッツ)
2、ブルックナー 交響曲第9番

 コンサートマスター:デヴィッド・ノーラン

 於:東京芸術劇場
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