2009/6/26

アレキサンダー・マッジャー ピアノ・リサイタル @紀尾井ホール 6/25  ピアノ

旧ユーゴスラビア出身のピアニスト、アレキサンダー・マッジャーの紀尾井ホールでのリサイタルを聴いた。この方はヴィルサラーゼの弟子で、母校であるベルギーのブリュッセル音楽院の教授を務めたのち、ベルンの高等音楽演劇学校の教授に転じている。いわゆる「アラフォー」のピアニストである。プログラムは、ドビュッシーとショパンのエチュードを前後半のメインに据え、その前菜として、リゲティのエチュードから1曲ずつを配したものだった。

演奏会最初のリゲティを聴いて、その音色の美しさと、柔らかいタッチに驚いた。これだけのものを弾けるならば、もっと良い席をとればよかったと思ったほど。しかし、次のドビュッシー晩年のエチュードは、いまひとつであった。昨年、小川典子が20周年記念のリサイタルで取り上げた作品でもあり、そのときの素敵な演奏がいまもあたまを離れない。それと比べると、マッジャーの演奏は焦点が定まらず、12曲を集めたときの構造観がはっきりしないのだ。1曲1曲をとっても、その精確で、柔らかな表現力は変わらないものの、全体に輪郭がぼやけており、瞬間的に凝結したものが浮かび上がったとしても、どこかにイメージが逃げていく部分があり、全体を貫き通す意思に欠けていた。

そこへいくと、ショパンのエチュード(op.25)は素晴らしかった。まずもってタッチが柔らかく、ショパンを弾く場合には、あまり鳴らしすぎないのが正解という常識が広まってきたのも嬉しい。マッジャーの場合、それに輪をかけたマイルドな響きで、いたわるような音色が美しいのである。

特徴のあるところを拾っていくと、第3曲は後ろを跳ね上げるようにして、馬が駆けるような躍動感で活き活きとしている。次の第4曲も低音の弾力性が強調されており、独特のフォルムを見せる。それは曲調の似ている第5曲にも引き継がれ、こちらのほうがよりヴィヴィッドで、いびつな感じを与える。第6曲は音色の美しさが出色で、特に右手のトリルの透明な動きは見事なものであった。ショパンのエチュードはいまや、簡単な曲になったのだろうかと勘違いさせられる。

第10曲は、ドビュッシーのときとは正反対に輪郭くっきりの爽やかな演奏で、特に、トリオのロマンティックさが浮き上がっている。両端部分は潔癖なほどの整然とした響きが特徴となる。次の曲にアタッカで突っ込んでいくときの迫力は、出色である。「木枯らし」として知られる第11曲は身体の使い方を工夫して、ぐっと重みの乗った演奏に仕上がっている。前半は横の揺れに焦点を合わせていたのに対して、後半にかけては縦の伸縮が意識され、ぐっと体重の乗っていく部分の立体感が堪らない。終曲の「大洋」は再び横揺れが激しいエクスタシーを誘い、これを粘り強くつづける。跳躍がものの見事に精確で、コンピュータでプログラムされたような指のコントロールに嘆息させられる。最後、シンプルな和声へと解決される部分の響きの美しさは秀逸で、この作品全体が結局のところ、ここに回収されるというイメージの大胆さには驚かされた。

全体的には清冽な演奏で、左手の柱もしっかり固定され、テンポ・ルバートのあり方には文句がない。ただ、難をいえば、いささか並行的な演奏で、遊びが少ない。とりわけ、最初の数曲はダイナズムの伸縮にも欠けており、いささか整いすぎた演奏に思えた。ときどき嘘のように粗い打鍵がある点と、パッセージの軽さが省略気味にきこえてしまう部分があるのは、残念である。

とはいえ、昨年のエル=バシャの名演には及ばないとしても、ハーモニーの美しさが自然に浮かび上がる好演であり、ヘルシーで、優しげな響きで演奏されるショパンのイメージは、妥当性が高かった。

【プログラム】2009年6月25日

1、リゲティ X:虹〜ピアノのためのエチュードT
2、ドビュッシー 12のエチュード
3、リゲティ XT:不安定なままに〜ピアノのためのエチュードU
4、ショパン 12のエチュード op.25

 於:紀尾井ホール
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2011/11/19  10:38

投稿者:通りすがり

先日放送されたクラシック倶楽部を見て、調べているうちにこちらへたどり着きました。

マッジャー――恥ずかしながら知らないピアニストでしたが、なんとも魅力ある音楽だと思いました。

おおむね書かれているとおりにわたしも感じました。突き抜けた感はないものの、得も言われぬ魅力。気が付けは何回も何回もBlu-rayの再生をしていました。

わたしはこのドビュッシーも好きです。そしてエルバシャよりもうんと引き付けられます。

次回の来日の折にはぜひ生音が聴きたいですね。では

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